贖罪の時(5) 治-1
馴染


 瞼を開けると、視界に薄い茶色の髪が飛びこんできた。
 懐かしい、色だ。そう思って、さらに目を凝らす。
 顔がこちらをむいていないのでよく分からないが、それは・………。懐かしい気配。
「………ルーシャ?」
 呟きに、少女が振りかえった。
 その、顔を見た瞬間。白い布に包まれた顔を見た瞬間。
 ゼルガディスは、跳ね起きた。
「ルーシャ!!目が………?」
 思わず、大きな声を出していた。その声に、呼応するかのように部屋の扉が開かれた。
 最初に飛び込んできたのはくすんだ金髪、緑の瞳をした、これも懐かしい顔。
「兄さん!!気がついたんだね!!!!」
 喜びに顔を輝かせ泣きながら駆け寄ってくると、ゼルガディスにしがみついた。
「よかった!!心配したんだよ、兄さん!!7年間も音信不通で、会えたと思ったら、こん な姿になってるしぃぃぃぃ!!!!!そのまま、丸一日意識不明にはなってるしぃぃぃぃ!!」
「レイス!お前、なんでこんな所に!!」
 驚く、どころではない。自分の記憶が正しければ、ここはセイルーンのはずだ。それなのに、どうしてここに、この二人がいるのか。
「お、落ち着け。レイス、事情がよくわからん!!ルーシャ、こいつをどうにかしてくれ!!」
 とにかく、しがみついている体を離させようとしたのだが、二度と離すまい、という気合で抱き付かれていて、それも叶わない。ルーシャは、そんな様子に、困ったように微笑んでいるだけだ。
 訳がわからなくて、ちらり、と視線を走らせる。扉の前に、同じく戸惑った表情で立っているガウリィがいた。
「ガウリィ。説明を頼めるか?」
 ゼルガディスの問いに、ガウリィは小さく首を横に振った。
「俺も詳しくはしら無いんだ。どうも、その子達は知っているようなんだが、誰にも言えないらしい。とりあえず、今リナを呼びに行かせてるから………」
 そこで、言葉を切った。何かを訴えるような"ゼルガディス"改め、レイスの視線に気がついたからだ。
「とりあえず、お前には話せるらしいから、俺は席をはずす。話が終わったら、呼んでくれ」
 それだけ言うと、さっさと隣の部屋へと消えてしまった。
 残されたゼルガディスは、結局何も分からないまま、混乱した頭を抱えて、レイスをなだめにかかった。

「なるほど。俺の名前を使ってセイルーンのパーティにねぇ」
 取り合えず、一通りの説明、―アメリアの見合いパーティにレイスが名を語ってでたこと―を受けて、ゼルガディスがため息をついた。
 寝室にあるベッドに腰掛けて、呆れた声を出す。その正面には、二人が椅子に座っている。
「ジャベルの考えそうなことだ。ル・アースだけでは満足できんか。しかし、どうしてお前はそれに協力したんだ?」
 不思議そうなゼルガディスの呟きに、レイスが体を硬くする。何かを思いつめた顔。
 その横には、同じように体を硬くしている、ルーシャ。彼女は、先程からほとんど声を発していない。訝しさに、目を細めたとき、レイスが口を開いた。
「兄さん。レゾ様に会わせてくれないかな?今、どうしてもお会いしたいんだ」
 その言葉に、ゼルガディスが言葉を詰まらせた。
 レゾの死は、まだ世間に知られてはいない。もともと人前に出るのを嫌がっていたので、その存在は生前から伝説化していた。しかし、今は……。
 ゼルガディスは、大きく息を吸い込んだ。真実を告げる、心を決める。

「レイス・・……。レゾ・・様は、死んだ。死んだんだ」
 染みとおるような深い声。その言葉に、真実の存在を感じとって、レイスが息を呑んだ。
 よろよろと、その手をゼルガディスに伸ばす。その様子は、まるで支えを失った赤子のようだった。その手を、ゼルガディスが支える。その時、呆然としたレイスの瞳から、涙がこぼれた。
「ルーシャの目・・…」
「…………ん?」
「レゾ様なら治せるかもしれないって……。でも、レゾ様も兄さんも、どこにいるかわかんないから…。でも、……見合いにでたら、レゾ様に連絡とってくれるって……。そう、いわれて、だから!」
 それだけを言うと、そのまま嗚咽を漏らし始めた。
 ずっと一人で抱え込んできて、ゼルガディスの会えて、これで全てがうまくいく、そう思っていたのに。それだけに、心が絶望に悲鳴を上げていた。
 ただ静かに嗚咽を漏らすその体を抱きしめた。
 可能性は、高くない。しかし、試さずにあきらめきれるものではない。だから、ゼルガディスはそっとルーシャにその手を伸ばした。
「ルーシャ。目を、見せてみろ。俺に、治せるかもしれない」
 その言葉に、レイスが、ルーシャが、顔を上げた。驚愕に顔が固まっている。

 レゾの研究については、ゼルガディスも補佐をしていた。そのため、その研究についても一応の知識がある。
 もしかしたら。
 その思いに、すがるように、ルーシャそっとゼルガディスの正面に座った。
 ゆっくりとその顔に巻かれている布を取り、顔をゼルガディスに向ける。
 その、顔を見て、ゼルガディスは息を呑んだ。
 震える手で、そのほおを挟み、その顔をそっと持ち上げる。
 硬く閉じられた量の瞼にくちづけをした。憤りに、声が詰まる。
 そして、そっとルーシャを抱きしめた。まるで、壊れ物に振れるように、優しい、優しい抱擁。
「……辛かったろう?よく、がまんした」
 囁くようなその声に、ルーシャが、ピクリと体を震わせた。ゼルガディスが、そのやわらかな茶色の髪をそっとなでた。
「もう、我慢しなくても、いい」
 あやすようなその口調に、ルーシャがゼルガディスにしがみついた。
「………う、うっく。……さん。…・・にぃ、さん……。う、ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 抑えていた感情が堰を切ったようにあふれてくる。涙がとめどなく流れる。
 それを抑えるでも無く、ゼルガディスはただルーシャを抱きしめた。それが、さらにルーシャの心を楽にする。
 気持ちを溜め込んで、その心を苦しめていたのはルーシャも同じだったのだ。ゼルガディ
スは、彼女の目を見た瞬間に、それに気がついた。
 湧き上がる思いは、同情でも憐憫でもなく、ただひたすらに、憎悪。
 向けられる相手は、今、この国にいる。


「ゼル!!アメリアが起きない!!!!」
 部屋に飛びこんできたリナの第一声が、それだった。その言葉に、ゼルガディスが、弓から放たれた矢のように飛び出した。
 目指すのはアメリアの部屋。
 その後を、残りの四人が追いかける。目の見えないルーシャはレイスが抱えて走っている。見た目からはなかなか想像できないが、彼は結構力があるようである。
「なぁ、リナ!!」
「何よ!!」
 走りながら、ガウリィがリナに声をかけた。
「フィリアの回復は間に合ったんだろ!!なんで、アメリアは起きないんだ?!」
「そのフィリアが言うには、心がこっちに戻ることを望んで無いかもしれないんですって!!」
 その叫びに、誰も、何も言わずに、後はただ走りつづけた。


 ―暗い。暗い。ここは、どこ?
 ―あの人はどこ?
 ―また、私を置いて行ってしまったんだろうか?
 ―そんなの、正義じゃないです。
 ―連れて行ってほしい、って言ったのに。
 ―返事もせずに、消えるなんて。
 涙が、こぼれた。置いて行かれたことが辛くて、悔しくて、情けなくて、自分がいやにな
る。
 暗闇で、道が分からないままに、ただ泣いていた。
 もう、なんにも分からない。
 ―いいや。帰っても、私ではいられないんだから。
 そう思ったとき、頭上から強い声が降ってきた。
「アメリア!!いい加減に起きないと、置いていくぞ!!!」
「いやです!!!」
 反射的に答えて、目を開いた。
 そうして、彼女は望んでいた人に、再会する。


ameria
by絹糸様
 目が見えなくて
 音も聞こえなくて
 何もかもが嫌になって
 それでも聞こえた
 あの人の声

       
 


 目の前に、ゼルガディスの顔があった。別れた時と変わらない、岩の肌に極細の針金の髪。その顔に安堵の表情を乗せて、そっと、アメリアの髪に触れた。
「ゼ、ルガディス、さん?」
 髪をなでられている感覚があるというのに、それでも信じられなくて、その名を呟いてみる。
「なんだ?」
 返ってきたのは、ぶっきらぼうな、それでも耳に心地よい、声。
「ゼルガディスさん」
 今度は、確信に声がもれ出る。ベッドの傍らに片膝をついていたゼルガディスが、その身をアメリアに寄せた。
「ゼルガディスさん!」
 差し出された腕に、体ごとしがみついた。ゼルガディスが困ったように笑いながら、アメリアの体をベッドの上に起こしてやる。そして、その横に自分も腰掛ける。
「約束通り、嫁に行く前だったろう?」
 どこかおかしそうに、ゼルガディスが咽を震わせた。その様子に、つい、すねてみたくなる。
「でも、遅いです!もうちょっとでお嫁に行かされるところでした!!」
 さらには、ゼロスにスップラッターにされるは、偽者にキスされるは、散々だったはずのくせに、この時のアメリアは舞い上がっていて気づいていない。
 ただ、ゼルガディスのマントの端を握って、ぷぅ、と頬を膨らませる。
 その様子に、ゼルガディスが微笑んだ。何よりも大切な存在が、ここに或ることに安堵する。


zelgadis
by絹糸様 
やっと会えた
 やっと聞けた
 今は手が届く
 安らげる場所に

       


「結構、急いできたんだがな」
 くすくすと笑いながら、涙の後が残るアメリアの顔に、そっと指を走らせる。途端に、アメリアの顔が真っ赤になる。久しぶりなので、免疫が追いつかないようだ。

           
「でも、遅かったです!!」
 赤い顔をごまかすように、大きな声を上げてみた。その時、ゼルガディスの顔に違和感を覚えた。いつもと同じなのに、どこかが違う。じっと、その顔を覗きこんだ。
「・・・・・…ゼルガディスさん。目…?」
「ん、ああ。なんか、色が変わってな。似合うか?」
「はい!」
 彼女にとって、ゼルガディスの外見は、大した問題ではなかった。ただ、彼が自分の傍にいることだけが嬉しかった。周りのことも見えていなかった。だから、傍に腰掛けているゼルガディスに思いっきりしがみついた。
「お、おい、アメリア…!!」
 動揺したゼルガディスの声が上から聞こえるが、気にしない。せっかく久しぶりに会えたのだから、思いっきり甘えたかった。それなのに・・・・・・・…。
「あの〜。盛り上がってるとこ悪いんだけどさぁ、アメリア。そろそろ、いいかなぁ?」
 遠慮がちなリナの声に、アメリアは初めて周囲に人がいることに気がついた。

「あ〜……、アメリア。とにかく、気がついて良かった。わしは、心配したぞ」
 娘が、家族以外の男性にしがみつく、という光景を見せられてさすがのフィリオネル王子も言葉を詰まらせている。
「ご、ごめんなさい。とーさん。心配かけて・・…」
 対する娘の方も、父親の前だったと気がついて、真っ赤になりつつしどろもどろに答えた。
 周りで見ているほうにも、心臓に悪い。まさしく、娘の彼氏とのデート現場を目撃してしまった親子の会話!である。しばらく、気まずい沈黙が続いたが、近衛兵がフィリオネル王子を呼びに来たことで、それは終わった。
 やや不満げではあったものの、フィリオネルが部屋を後にする。いつもハイテンションな親子が、ローテンションな対面をしたために、どうもすっきりしないようだ。その複雑な胸中を物語るように、肩はがっくりと落ちている。
 そんなフィリオネルを心配してか,ヴァルが一緒に部屋を出ていた。意外な気がするが,ヴァルはすっかりフィリオネルになついてしまっているのだ。
 フィリオネルが部屋を静かに出て行ったとき、その部屋にいたもの全てが一様に大きく息を吐いた。特に大きかったのは、当人達のようだったが。

「さて、アメリア。やっとゼルに会えたご感想は?」
 にやにやと、面白そうな表情を浮かべて、リナがアメリアのベッドの横にある椅子に座った。その言葉に、アメリアの顔が真っ赤になる。ゼルガディスは、内心の動揺をごまかすためか、手近にあった果物籠からりんごを取り出して、一口かじる。
「そ、な!や、だなぁ。こ、ここで言える訳無いじゃないですかぁ!!」
 そう言いつつ、くるり、と視線を部屋に巡らせた。未だにベッドの上に座り込んで、傍にいるゼルガディス。隣に座ったリナ。その傍らに椅子をもってきて座るガウリィ。部屋においてあるソファに腰掛けて、何かを読んでいるのは懐かしのフィリア。
 そして………・。
 視線が、レイスの上で止まった。隣には見たことの無い、少女(以前聞いた、彼の盲目の妹、ルーシャであろう)。その瞳が驚愕に開かれる。そのまま、ゼルガディスの背中に隠れるように寄り添ってきた。
 その様子を見て、ゼルガディスが怪訝そうに目を細めた。説明を求めるようにリナを見る。
 その顔が、気まずそうに歪む。ぽりぽりと、頬をかきながら、リナが言いにくそうに声を出した。
「…えっと、なんて言ったら言いのか、な?え〜と、ね。アメリアが婚約者選びのパーティに出たことは知ってるよね?」
 しどろもどろの言葉に、嫌な予感を覚えつつゼルガディスが頷いた。
「それでね、ゼロスの乱入でうやむやになったんだけど・・・・・・…。一応、彼がアメリアの婚約者〔仮〕に選ばれた訳……・・」
「………で!」
 それだけでは、アメリアのこの反応は納得できない。視界の隅に、青ざめて有らぬ方向を見つめているレイスの姿が見えた。
「なんだ、リナ。もう忘れたのか?俺は覚えてるぞ。確か、誓いの儀式でレイスがアメリアにキスしたんだったよな」

 静寂。
 あまりにも、のほほんとした口調で言われたので、その場にいたもの全てが、何を言われたのか分からなかった。
「ばっ!ガウリィィィィィィ!!あんたは、いらんことだけ覚えて、しかも喋るなぁぁぁぁ」
 涙声になったリナが、ガウリィをしばき倒そうとした、その時。
 ぐわしゃ!!!
 ゼルガディスが持っていたりんごを握りつぶした。
 色違いの瞳が、危険な色を帯びて輝く。
 その瞳が、こっそりと部屋を抜け出そうとするレイスを捉える。
 カカカカ!!!
 数本のナイフが、ドアノブに手をかけたレイスの周囲に突き立った。
 泣きそうな顔でレイスが振返ると、そこには怒りに半眼を閉じているゼルガディスの姿があった。
「……どこに行く気だ、レイス?」
 優しいとさえ思わせる口調で、ゼルガディスが囁いた。
「ああぁぁぁ!!兄さんが本気で怒ってるぅぅぅぅぅ!!」
 絶望的な悲鳴を上げつつ、じりじりと迫るゼルガディスから体を遠ざけようと、必死で扉を探ろうとした。しかし、その手を握った者がいた。
 視線を横に向けると、ゼルガディスと同じような表情をしたルーシャが彼の手からドアノブを守るようにその前に立っていた。
「ルーシャ!!あ、あれは、違うんだ!やむを得ず…!!」
『問答無用!』
 にっこり笑ったゼルガディスとルーシャの声が重なった。その瞬間、レイスは自分の体が宙を舞っているのに気がついた。
 いつにまにか接近したゼルガディスが彼の体を掴んで投げ飛ばしたのだ。
「いきなりぃぃぃぃい!!?」
 空中で、軽く身をひねって猫のように床に着地する。その身のこなしに、リナ達が息を飲んだ。ただの貴族の坊ちゃんの反応では無い。
「何者よ!?あの子は!」
「ちっ。身のこなし方だけは上手くなりやがって」
 リナの叫びを無視して、ゼルガディスがつまらなそうに吐き捨てた。
 レイスが、腰を低く落としながら、ぺろりと唇をなめた。
「僕だって、だてに7年間やっていた訳じゃないよ」
 挑戦的な口調に、ゼルガディスがふふん、と鼻でわらった。
「それで?」
 呟くと、一気にレイスとの間合いを詰めた。そのスピ−ドにレイス反応が遅れる。
「遅い!!」
 襟首をつかみ、その体を床から引きぬくように持ち上げた。そしてそのまま、開いていた窓の外へ勢いよく放り投げる。
「う、わあああああぁぁぁぁぁ…・・」
 悲鳴が、だんだんと小さくなって行く。その様子に、リナ達がはっと我に返った。
「ちょ、ちょっと、ゼル!!いくらなんでもやりすぎよ!!ここは五階なのよ?!」
「そうですよ、ゼルガディスさん!!死んじゃったらどうするんですかぁぁぁ!!」
「あああ、火竜王の巫女たる私が止められなかったぁぁぁぁぁ!!」
 それぞれに勝手なことを言っている女性陣を無視して、ゼルガディスはルーシャの手を引いて、レイスを放り出した窓に近づいた。
「ルーシャ」
「はい,兄さん」
 ゼルガディスの呼びかけに,心得たようにルーシャが小さなナイフを取り出した。それを受け取って,ゼルガディスがその窓枠に指を滑らせた。
「ゼル?何やってんの?」
 興味津々の女性陣(まだ動けないアメリアをのぞく)が、ゼルガディスの横から窓の外を覗きこんだ。そこには、三又に分かれた鉤づめが引っかかっていて、その先から伸びたロープの先にレイスがしがみついている。
 レイスが上を見上げた。目に涙を浮かべて,必死で登ってきているのだが、その瞳がゼルガディスとルーシャを認めた瞬間、はっきり泣き始めてしまった。
「わぁぁぁぁぁ!!もう、許してよ。ルーシャ!!にいさぁぁぁぁぁぁん!!」
『却下!』
 二人は軽く呟くと、ゼルガディスが無表情にそのロープを切った。
「ひどいよおおおおぉぉぉぉぉぉ………」
 抗議もむなしく,ただ落ちて行く。
 その様子を唖然とした表情で見つめながら、リナが呆然と呟いた。
「い、いいの?」
「あいつは、あれぐらいじゃ死なん。なぁ、ルーシャ」
「そうね、兄さん」
 その言葉に,これまでのレイスの日常を垣間見たような気がして、その場にいた者全員が、不幸な青年に同情した。

「うっ、うっ、ひどいよ、二人とも」
「アメリアに手を出すからだろう」
「そうね」
 帰ってきてから泣きつづけているレイスに対するゼルガディスとルーシャの反応は、あくまで冷たい。しかし、どうやってあの高さから落ちて無傷なのだろうか。などと思いつつ、リナが助け舟よろしく声を出した。
「まぁまぁ。殺されなかっただけましと思いなさい。あんたがゼルの弟じゃなかったら、間違いなく血を見てるわよ」
 リナの言葉にガウリィ,フィリアが頷いた。アメリアだけは,真っ赤になって俯いている。
 しかし、ゼルガディス、レイス、ルーシャの三人は、当惑したように顔をみあわせた。
「弟?誰が?」
 きょとんとした表情のゼルガディスの言葉に、全員が戸惑った。
「だ、だって、レイスがゼルガディスのことを"兄さん"て呼んでるから・・・・・・・…」
 ガウリィの言葉に,ゼルガディスは軽く手を打った。
「ああ、それでか。違う違う。昔からこいつがそう呼んでるだけで,別に兄弟じゃない。レイスは俺の父方の従弟で,ルーシャは近所に住んでた子だ」
『従弟に,ただの幼馴染ィィィィ?!』
 その場にいた全員の声が揃ったとき,部屋にヴァルが飛びこんできた。
「ゼルにぃ!!ゼルにぃのとこの叔父さんが大変だって!熊おじちゃんが、みんなを呼んでこいって!!」

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