贖罪の時(5) 治-3
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「あのようなキメラを信用なさると、フィリオネル殿下はおっしゃるのですか?!!!聞けば、あの者、闇の世界でそこそこの名を馳せた者!!そのような裏社会の人間を信用なさるとは、国家の信用問題にかかわりますぞ!!」
 挑発的なジャベルの言葉に、会議室内の様々な所から賛同の声があがる。国家の上層部にかかわるだけあって、そういう裏の事情に詳しいもの達もいるようだ。
 困惑や不審、さらには挑発的な視線の数々の中で,フィリオネルは腕を組み,目を閉じたままぴくりともしていなかった。その沈黙を反論不可能なのだととって、会議室の別の場所からさらに声が上がる。
「それとも、なんですか?彼のようなキメラこそが赤法師の血縁者で、しかも弟子だったとでもおっしゃるのですかな?!!」
  その、あからさまにゼルガディスを侮辱した発言に、フィリオネルがくわっ、と両目を見開いた。
 フィリオネルの眼光の鋭さに、今まで浮き足立っていた王侯貴族たちの空気が引き締まる。
「ゼルガディス殿は我が娘の命の恩人!その方を侮辱することは、我がセイルーンへの侮辱と受け取りますぞ!!!また、外見のみで人を判断するのは、国の上に立つものとして危険ではないですかな?!!」
 フィリオネルの声の大きさと言葉に、会議室にいた者達全員が、息を飲んだ。
 凍てつくような沈黙の中、きぃぃ、と扉のきしむ小さな音が部屋に響いた。
「おお、ヴァル!!ゼルガディス殿はどうした?!」
 会議室の扉をこっそり開けたヴァルを見つけて、フィリオネルが傍に駆け寄った。
 その巨体を見上げつつ、ヴァルがちょこん、と首を傾げた。
「あのね、ゼルにぃが、後2〜3時間待ってくれ、って」
 ヴァルの言葉に、ジャベルが鬼の首を取ったかのような勢いで喋り出す。
「はん!!!その間にこの国を逃げるつもりではないですかな?!!その証拠に、正当なる延長の理由も伝えてこんではないですか!もしかしたら、アメリア姫を連れ去る計画でも立てているのではないですか?!油断のならない男だそうですからな?!!!それに今回のことも、あの男が原い…」
「だまらぬかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
 とうとうと喋りつづけるジャベルに、フィリオネルの激しい一喝が飛んだ。びくりっと、体を硬直させて、ジャベルが黙り込む。
 その様子を横目に睨みながら、フィリオネルはヴァルの横に腰を下ろした。
「それで、ヴァル?他に何か言ってなかったか?」
 穏やかなフィリオネルの問いかけに、ヴァルが再び頷いた。
「んっとね。『リナとガウリィが腹を空かせて暴れ出しそうだから、昼飯を食ってからにしてくれ』、だって」
 ヴァルがゼルガディスの言葉を伝えた瞬間、会議室が静寂に包まれた。
 腹を空かせた「リナ・インバース」と「ガウリィ・ガブリエフ」。その二人の機嫌を損ねることは、一国の存亡さえも左右するという。
 戦慄が、会議室を走り抜けた。
 …………そして、ゼルガディスの提案は、一もニもなく通ったのである。

「どうしてあんな理由で、通るわけぇぇぇぇ!!!」
「そりゃあ、リナだから・・・・・・…」
「あんたも入ってるのよ!!!」
 どこ、げし!!!びし!!
 いつもの通りのどつき漫才を横目に見ながら、リナとガウリィ以外の者は納得した様に頷いた。
「お腹を空かせたリナさん達に敵う人なんて、いませんからねぇ」
「そうなの?レイス」
「噂を鵜呑みにするのは危ないけど、話半分に聞いても、すごいらしいね」
「そうです!!あんな状態のリナさん達に手を出すのは、冒険初日に最終決戦の場に引きずり出されるのと同じ位、危険です!!!!」
「………外の世界では、同じようなリアクションとってたのは、誰だったかな?」
「うっ!!!あれは、正義のためだから、いーんです!!!」
「………で、あんたらは全員、納得するわけね?」
 にぎやかな雑談は、不機嫌なリナの一言で凍りついた。
 全員が、恐る恐る振りかえると、そこにはぼろぼろになったガウリィと、指の関節をぱきぱきと鳴らしているリナの姿があった。
「リ、リナさん!!暴力はいけません!暴力は!!こんな所で暴れると、また泣く人がでますぅ!!」
 フィリアが、がしぃっとリナの腕にしがみついた。
「離しなさい、フィリア!!!あんたはまた、人を破壊神かなにかのように・・…!!!」
(大してかわらんだろうが・・・・・・・…)
 そんな思いを胸に秘めて、竜族のフィリアの力から必死で逃れようと暴れるリナを、全員が見つめていた。

「で、これからどうするわけ?」
 ガウリィをぼこぼこにし、フィリアを泣かせてすっきりしたのか、えらくさっぱりとした顔でリナが言った。
 その様子に、ゼルガディスが苦いため息を漏らし、同情の視線をガウリィに送った。
「相変わらず、旦那の扱いがひどいな。しばらく二人だけで旅をしてきたくせに、何の進展も無かったのか?」
「………んな!!!なにを…!!」
 思いがけないゼルガディスの言葉に、リナが首筋まで赤くなる。
「まぁ、お前ららしいといえばそれまでだが…。とりあえず、リナ達は飯でも食っててくれ」
「めぇぇぇぇしぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
 ゼルガディスの言葉で、ガウリィが復活した。
「って、そんなんで復活するなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 ゼルガディスの言葉の余韻を引きずっているリナが、いきなり背後で復活したガウリィに、チョーク・スリーパーをかける。が、その顔が赤く染まっているのは、誰の目にも明らかであった。
 そのまま、大いに脱線して行きそうな二人を放っておいて、アメリアはゼルガディスを見つめた。
「リナさん達は・・…って、ゼルガディスさんはどこかに行くんですか?」
 どこか、淋しそうな雰囲気が言葉から滲み出す。子犬のような瞳に、ゼルガディスがぽりぽりとその頬を掻く。
「まぁ、ちょっと、野暮用があってな。レイスとちょっと、出かけて来る」
「ふ〜ん、……って、兄さん?!!僕もなの!!」
 何気なく頷いたレイスが、ぎょっとしたように身を引いた。その様子を冷たく見つめて、ゼルガディスが冷めた声を出す。
「当然だろう?俺は最近の事情をよく知らん」
「でも……、僕のご飯はぁ?」
「だぁぁぁぁ!!!お前は2〜3日は食わんでも平気だろうが!!とっとといくぞ!!」
 なおも食事に未練たっぷりのレイスの襟首を引っつかんで、ゼルガディスはすたすたと扉に向かった。が、その一歩手前で立ち止まると、背中越しに振りかえった。
「アメリア!」
「あ、はい!!」
「お前、最近ろくに食っていなかったんだろう?きちんと食べておくんだぞ!」
「え、あ。はい!!」
 元気いっぱいに答えたアメリアに,ゼルガディスは軽く頷き返すと,さっさと扉の向こうへ消えていった。
 その部屋に、食事が到着したのはその直後だった。
 
「あああああああああああああ!!それ私のよ!!勝手に食べんじゃないわよ!!」
「そういうお前だって俺のエビフライ取っただろうがぁぁぁ!!!」
「リナ!!僕のお魚も取った!!!」
「うるさいわよ、ヴァル!!早い者勝ちに決まってるじゃない!!!ガウリィのくせに、文句言ってるんじゃないわよ!!だったら、このお肉も〜らい!!」
「うぁぁぁぁぁ!!!俺の肉ぅぅぅ!!!!」
「ガウリィ、隙あり!!僕も、この鳥も〜らった!!!」
「こうなったら、このスープは俺がぁぁぁぁぁぁ!!!」
 いつも通りの食事風景。
 そこに、さらにヴァルが加わっているので、余計に騒がしくなっている。
 それを止めるかと思ったフィリアは、
「ああ、ヴァル・・・・・・…。リナさん達の食事に加われるなんて、立派になったわね・・・・・…」
 などと呟きながら、目じりをハンカチで抑えている。
 その凄まじい喧騒に、ルーシャが困惑したように顔を引きつらせた。
「あ、あの、アメリア姫。なんだか、ものすごい音が聞こえるんですけど・・・・・…。しょ、食事のはずですよね?」
「………え、あはははははは。気にしないでください!!リナさん達には、あれが普通なんですから!!」
「・・・・・・…普通、なんですか・・…」
 無理やり自分を納得させる様に呟いて、ルーシャが小さく頷いた。そして、手にしていたサンドイッチを一口かじる。目の見えない彼女のために、厨房が特別に作ったのだ。
 そのことに感謝しつつ、アメリアもスープを一口すする。彼女の場合、長い間食事を取っていなかったので、胃に優しい薄い味付けのものが用意されているのだ。
 それを食べながら、ぼんやりとルーシャの顔を見つめる。
 今は顔半分が布に覆われているとはいえ、顔立ちがきれいなことは容易に想像できる。しかも、それはゼルガディスの、もろ好みのような顔立ちだ。つまり、おとなしそうで、守りたくなるような少女。その華奢な手足を見つめ、自分と比べてため息をつく。
 自分は、どう考えても守られるタイプではないし、自分でもそうなりたいとは思わない。しかし、やはり好きな人の気になるタイプのことは気にかかる。
 はぁ、とため息をつくと、それが聞こえたのか、ルーシャが怪訝そうに首を傾げた。
「どうかなさいましたか、姫君?」
「え!!ああ!!何でも無いです!!!」
 まさか、あなたの容姿を見てたから、とはいえない。それで、慌てて首を振ったとき、リナ達の食事の音が途絶えた。
「ふぃぃぃぃぃ!!お腹いっぱいィィィ。もう食べられないかも・・・・・…」
「おう。食ったなぁ」
 満足そうにお腹をさすりながら、リナとガウリィが幸せそうに椅子にもたれかかった。その横では、ヴァルが机に突っ伏して小さなあくびを漏らす。
「お腹いっぱいになったから、眠くなったの、ヴァル?」
「ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜?」
「おお、眠いのか?ヴァル。しょうがないなぁ。ベッドに連れてって来る」
 すやすやと、寝息を立て始めたヴァルを抱えると、ガウリィが部屋から出ていった。
 そして、部屋には女性四人だけが残る。女性だけ……。

 そうなれば、花が咲くのは恋の話。
 リナとフィリアがにやり、と顔を見合わせると、その顔のままアメリアに向き直った。
「な、なんですか?二人とも!?」
 その様子に、不穏な空気を感じ取ったアメリアが、少し身を引いた。
「何って、決まってるじゃない!なんだかごたごたしてて聞き忘れてたけど、9ヶ月前に、ゼルと一緒に帰ってきたんでしょ?!」
「それで、お二人の仲はどこまで進んだんですか?」
「な、ななななな、なかって!!」
 真っ赤になるアメリアに、リナとフィリアがさらに詰め寄る。
「なんにも無かったなんて言わないわよねぇ?あんたのそのブレスレット。もう一つはゼルが持ってたのを、水筒出した時に私はこの目でしっかり見たんだから!!」
「それに、あのゼルガディスさんが、公衆の面前にもかかわらずキスするなんて、きっと、何かあったはずです!!」
「そ、そんな事、言われたってぇぇぇ!!!」
 真っ赤になりつつ,涙目になるアメリア。それでも容赦するつもりは無いらしく、リナとフィリアはその視線をはずさない。
 そこに、ルーシャのやや驚いたような声がかかった。
「アメリア姫と、兄さんは・・・・・…、恋人同士だったんですか?」
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!!そ、そんな、恋人だなんて!!!まだ、なんにも言ってないです!!!」
 ルーシャの問いに、首筋まで赤くなりながら、アメリアが首をぶんぶんと振る。
 その答えに、ルーシャが少し首を傾げる。
「そう、なんですか?私はてっきり、二人は……」
「でしょ!!思うでしょ?!!なのにゼルのやつが、な〜かなか煮え切らなくてねぇ!!」
「そうですよね!!早く告白しちゃえばいいと思うんですけどね。ご自分の体のこととか、過去の事とか気にしてて、言えないみたいですけど・・…」
「かぁぁぁ!!そんな事、気にしてないわよねぇ?!アメリア!」
「え、あ、はい!気にはしてません!!」
 はっきりきっぱり言いきったアメリアに、リナが満足げに頷き、フィリアが優しく微笑んだ。
 そこに、当惑したルーシャの声がかかる。
「兄さんに、何かあったんですか?あの体も、どうしたんでしょうか。連絡が無かったこの7年に、何があったか、ご存知なんでしょうか?!!」
 すがるようなルーシャの言葉に、全員が顔を見合わせた。これは、ゼルガディス本人が決めることで、部外者が口を出すべきことではない。過去のことも、彼がそうしたい、と思えば話すだろう。
 そう思って、それをリナが伝えた。その答えに、ルーシャは顔を曇らせた。
「…では。きっと教えてくれないでしょう。昔から、自分の問題は自分で解決しようとする人でしたから」
 その言葉に、全員が納得して頷いた。彼は、人を頼る、という事をなかなかしない。仲間としては、頼ってほしいと思うのに、彼はそれすらをも厭う。

 ルーシャは一つため息をついた。
「・・・・・…兄さんは、いつも、どこか辛そうでした。けれど、皆さんと話しているときは、そんな気配が薄くなっていたんです。だから、……兄さんは今、幸せでしょうか?」
 心配に顔を歪ませて、ルーシャがそっと呟いた。
 リナが、あさっての方向を見つめつつ、天井を見上げる。
「さ、ね。幸せっていうのは、個人の判断だから、客観的にははっきり言えないかな……」
「そうですか・…・・・・・…」
 俯いたルーシャの両肩に、そっとフィリアが手をおいた。
「大丈夫ですよ。彼は幸せになる努力をする方ですから」
「……はい。そう、信じています」
 そのとき、硬く握り締めていたルーシャの手をぐわしっ、とアメリアがつかんだ。
「大丈夫です!!幸せは、必ずやってきます!!いいえ!例え来なくても、このアメリア=ウィル=テスラ=セイルーンが、必ず幸せにして見せましょう!!!」
 その叫びに、グラリ、とルーシャの体が傾いだ。それでは、まるでプロポーズである。けれど本人にはその自覚が無いようでもある。
 ルーシャには、どうしてゼルガディスがこの姫君を気に入ったのか、少し分かった気がした。
 彼女には、人を幸せにする力が、あふれている。 
 そう思うと、頬が自然にほころんだ。

 その時、リナの顔がまたしても、にやりと歪む。そして、ルーシャのほうに向き直ると、その顔を覗き込む様に頬杖をついた。
「そういえばさぁ、レイスってルーシャの彼氏?」
 唐突な問いに、ルーシャの頬がほんのりと染まる。
 フィリアが入れたお茶をすすりながら、リナが納得した様に頷いた。
「やっぱりねぇ。兄弟にしては、妙に中が良すぎるなぁとは思ってたのよ」
「へぇ、そうだったんですか」
「いいなぁ、両思いかぁ」
 ルーシャ以外の3人が、顔を見合わせてうんうんと頷きあった。
 そこに、当惑したルーシャの声がかかった。
「ちょ、ちょっと待ってください!!別に私とレイスは、そんなんじゃ・・・・・…!!大体、私はただの民の一人にしか過ぎませんから!!」
「え〜〜〜!とてもそんな風には見えなかったけどぉ?」
「そうですよね!!レイスさんも、とてもルーシャさんの事を大事にしている様だったし!!」
「それは!!それは、……違うんです。彼が私の事を気にかけるのは、この目のせいなんです!!」
『目のせい?』
 全員が、当惑した声をあげた。
「どういうこと?あなたの目は1年前に不慮の事故でそうなったって、言ってたじゃない。それなのに、どうしてレイスが気にかけるのよ?」
 リナの言葉に、ルーシャが顔を歪ませた。
 脳裏によみがえる、光を失った日のこと・・・・・…。決して忘れる事はできない、あの出来事。
 俯いて、唇をかみ締めてしまったルーシャをみて、リナは諦めて両方をすくめた。
「まぁ、話したくないならいけど。でもさ、レイスのあれは、絶対に恋愛感情からだと思うんだけどねぇ」
 呆れたようなリナの口調に、アメリアの声が重なる。
「そうです!!お二人は相思相愛なんですから!!身分のことなんか気にせずに、突っ走っちゃってください!!」
 はっきり言いきるアメリアの言葉に、ルーシャの頬に一筋の汗が流れた。
「相思相愛って、決まったわけじゃ・・・・・・・…」
「そんなことないです!!もっと自信を持ってください!!!」
 アメリアの言葉に気おされて、こくこくと頷きながら、気付かれないようにため息をついた。
(兄さん・・…。この人達、どうやってとめるんですか…………?)
 三人の常識外れな力を持った女性達の会話を聞きながら、ルーシャは途方にくれていた。
 ちなみに、今の話題は、いかにしてレイスとゼルガディスに告白させるか?である。
 目にうっすらと涙を滲ませて、話しのネタの少女は逃げることさえかなわなかった・・・・・・…。

「ふえっくしゅ!!」
「風邪?兄さん」
「いや、なんでもない」
 セイルーン王家迎賓館の廊下を二人は歩いていた。ちょうど食事時という事で、歩いている者が少ない。
 そこでレイスは、少し気になった事を聞いてみよう、と思った。
「ねぇ、兄さん。兄さんはあの魔族・・ええと、ゼロスと知りあいだったの?」
 何気に聞いた質問に、ゼルガディスのこめかみが引きつった。脳裏によみがえる、ゼロスに飲まされた苦汁の数々。
「………色々あってな」
 絞り出すような声に、これ以上の質問は危険だ、と感じとって、レイスは話題を変えることにした。
「そういえば兄さん。アメリア姫と結婚するの?」
 ずがしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!

        
 ぴかぴかに磨かれた床の上を、ゼルガディスが派手に滑って、こけた。
「何でそうなる!!!!!」
 真っ赤になりながら身を起こして、ゼルガディスが叫んだ。
「え、え?!だって、さっきだってあんなに心配してたし、僕がキスしたって言ったら、今までに無いくらい怒ったじゃない!兄さんは他人のためにあそこまでやる人じゃなかったから・・・・・・…。ち、違うの?」
 当惑したようなレイスの言葉に、ゼルガディスは手のひらで顔を覆った。
 確かに、他人のためにはあそこまで動かなかっただろう。レイスの知らない7年前からの自分なら・・・・・…。
(しかし、そんなに態度に出ていただろうか?)
 自覚がまったく無い。これでは、アメリアも大変であろう。
 いきなり思い悩んでしまったゼルガディスに、レイスがそっと声をかける。
「あの〜、兄さん。告白はもうしたの?早くしないと、他の人に取られちゃうかもよ?」
「だぁぁぁぁぁ!!!そういう余計なことをいうのは、この口か!!ええ、この口なんだな!!!!」
「いひゃい!!!いひゃいひょ(いたいよ)!!」
 真っ赤になったゼルガディスが、力いっぱいレイスの頬を引っ張った。
「余計なことばっかり、覚えやがって」
「だからって、力いっぱい引っ張ることないじゃないか!!」
 真っ赤になった頬をさすりながら、レイスが恨めしそうな視線をゼルガディスに向ける。が、ゼルガディスにぎろり、と睨まれてあえなく口をつぐんでしまう。
 それに満足したのか、再びゼルガディスが歩き出した。後ろにレイスがついてくるのを確認して、再び口を開く。
「現在、この国に来ている王族の中で発言権の強いので、上から五カ国は分かってるな?」
「うん」
「その国々に対する情報は、全部あるのか?」
「いや、1カ国だけ。ランドーグ王国だけ情報が無いんだ」
「ああ、そこなら、一つある」
 平然と言葉を交わしながら、二人は歩いて行く。レイスは、自分の為すべき事はわかっていた。
 古来、ル・アースは情報収集能力によって生き残ってきた。それゆえ、彼自身も幼い頃から、潜入の技を仕込まれ、実際に行った事もある。
 集められたそれは、外交上の駆け引きや貿易、脅迫に使われる。
 そして今回は・…・・・・・…。
「どこからはじめるの?兄さん」
「一番落ちやすそうな所に決まってる」
 裏取引に応じる、国。
 まずは、周りから崩して行こう……・・・・・…。
 そう、ゼルガディスは心に決めて、第一の扉を開いた。

 限られた時間は、多くはない。


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