贖罪の時(5) 治-4
断罪
―約1.5時間後・・…
痺れを切らした貴族やジャベル、さらにはセイルーンの重臣達まで大会議室に集まっていた。
しかし、セイルーンの重臣やフィリオネルはあくまで中立という事で、発言は控える事になっている。これは、フィリオネルがゼルガディスをつゆとも疑っていない結果でもあった。
この大会議室は、一度に100人単位の人数で会議を行える場所で、すり鉢上になった席があり、その底に当たる部分には発言者が立つようになっている。
今、その会議場は約半分の席が埋められ、ざわざわとした喧騒に包まれている。
審判が、今始まる・・・・・・…。
すり鉢の底にある、一段高い場所に司会らしき男が立った。
「え〜。お集まりの皆さんもご存知のように、現在この国には"ゼルガディス・グレイワーズ"を名乗る人物が二人、存在します。同姓同名の別人,という可能性はもちろん否めません。しかし、ここに居られるジャベル殿は、突然現れたキメラの青年こそが、彼の甥の名を語っている、と証言されています。しかも、そのキメラの青年は闇社会で生きていたものだ、とさえ証言されています。それが本当なら、偽証罪、さらには様々な前歴に対する究明が必要となるかもしれません。それでは、会議を始めたいと思いますが、二人の"ゼルガディス"さんは?」
くるり、と後ろを振りかえると、いらいらしたようなジャベルとリナが、同時に首を横に振った。
その様子に軽く頷き返して、司会者が前に向き直った。
「どうやら,双方ともに遅れていらっしゃるようですが、ここで何か意見、ご質問のある方は?」
司会者の声に、ジャベルが勢いよく立ち上がった。
「儂の甥は、今あの男に脅されているのかもしれません!!!甥は、気が弱く、あのような男に脅されればすぐに従ってしまうかもしれません!!よろしければ、今すぐに甥を探しに行く許可がほしいですな!!」
その発言に、納得したように貴族達が頷いた。そして、セイルーンの重臣が、視線で兵士に合図を送り、幾人かを外へと送り出す。
その様子を、リナは苦々しく見つめた。
これは、ゼルガディスがそれをやりかねない人物だ、と何人もの人間が思っている証拠なのだ。
リナの隣で、セイルーンの正装に着替えたアメリアが同じような表情で、ジャベルを睨みつけている。
そんな様子に気付かないのか、それともあえて無視しているのか、なおも、ジャベルの演説は続く。
「そもそも、今回アメリア姫を狙って現れた魔族!!あれがはっきり言ったのを皆さんは聞いていたはずです!"ゼルガディス、に対する囮"という言葉を!!これは何を表すのでしょうか?!」
あえてそこで言葉を切った。
困惑の気配が、あっという間に会議場全体を包む。
そこを狙い済ましたかのように、再びジャベルが口を開く。
「そうです!!あの魔族と男は何かの契約を結んでいたのかもしれません!!そして、アメリア姫を助ける振りをし、まんまとセイルーン王家に取り入ったのです!!いえ、もしかしたら、姫の命をも狙っているのかも……!!!」
「元気そうだな、ジャベル」
得意げなジャベルの言葉が、不機嫌な声によってさえぎられた。
決して大きくは無いが、背筋に響くこの声に、会場が水を打ったように静まり返った。
「ゼルガディスさん!!!」
アメリアが、会議場の入り口に立っているゼルガディスとレイスを見つけて、喜びに顔を輝かせながら駆け寄った。
「何をしてたんですか?心配したんですよ!」
マントの端を握り締める彼女に、ゼルガディスは何故か赤くなりながらそぽを向いた。どうも、先刻レイスにいわれた言葉が頭に残っているようだ。
そのままの姿勢で、後に立つレイスを親指で指す。
「早くきたかったんだが、こいつの着替えが遅くてな!」
「…………すいません」
ゼルガディスのいらいらした口調に、小さくなりながらレイスが謝った。
ゼルガディスはいつも通りの格好なのに比べ、レイスは緑を基調とした礼服に身を包んでいる。
当惑する仲間たちの顔を可笑しそうに眺めて、ゼルガディスはさっさと壇上の人となってしまった。
仕方なくアメリアも、元いた自分の席へと戻る。
隣のリナが、何かあったのか?と目で訴えてくるが、横に首を振るしかなかった。そのリナの隣では、ガウリィがすやすやと気持ちよさそうに眠っている。もはやリナも諦めたのか、そんなガウリィには見向きもせずに、壇上に視線を戻した。
ヴァルは、食事の後も眠りつづけているので、部屋で寝かせている。
そして、フィリアも、ルーシャもまた、緊張した面差しで、じっと事が始まるのを待っていた。
壇上では、今まさに、ゼルガディスとレイスがなにかを始めようとしている、所だ。
壇上に立ったゼルガディスは、今はフードとマスクを取り、その素顔を完全に人目にさらしている。その事に、まず会場中の者が驚きざわめいた。
青黒い肌をさらし、銀の金属の髪をし、それでも背筋を伸ばして正面を見つめるその姿は、会場中のものの息を飲ませるほどに、威厳にあふれていた。
その視線の中、ゼルガディスは軽く頭を下げた。
「今回、我がル・アースのことで,セイルーンを初め多くの国の方々を混乱させてしまったことを,まず謝罪いたします」
口調が、完全に変わっている。完璧なる宮廷の言葉。その静かなゼルガディスの声が、会議場に響き渡る。その言葉の内容に会議場の人々は息を飲んだ。彼ははっきりと言ったのだ。"我がル・アース"と。
「そして,今回の混乱の原因を作った二人を改めて紹介いたしましょう。そこにいるのが、我が叔父に当たるジャベル・グレイワーズ」
紹介されたジャベルは、脂汗を流しながら、硬直している。
「ここに控えているのは、そのジャベルの息子であり、私の従弟に当たるレイス・グレイワーズと申します」
名前を呼ばれたレイスは、恐縮したように、それでも礼儀作法からは文句のつけようがないほど優雅に、一礼をした。
その事に正気を取り戻したのか、ジャベルが椅子をけって立ち上がった。
「でたらめだ!!!皆さん、その男を信じてはなりませんぞ!!ゼルガディスはこの男に脅されているに違いありません!!」
「いいえ!!!ぼ・…、私は脅されてなどおりません!!私は、自分の意思でここにいて、そして自分の名を名乗っています!!父上!!もうやめてください!!!」
「何を馬鹿な事を言っているのだ?!!そうか、そう言えと脅されたのだな!大丈夫だ、お前はこのわしが守ってやるから本当の事を言いなさい!!」
「叔父上。いい加減にしてください。それ以上ル・アース公国に泥を塗らないでいただきたいものですね」
グレイワーズ一族の口論に、会場に困惑の空気が流れて行く。
ざわめきが爆発する寸前、ゼルガディスが大きく机を掌で打った。凄まじい音が、会場の空気を静める。
それを確認して、ゼルガディスは完璧なる礼を取った。
「今回の事、わが国の恥なれば、内々で処理したいかと存じます。できれば、皆様にはこのままお引取りを願いたいと思うのですが?」
ざわり、と空気が動いた。確かに、これからの話し合いは国の内情を暴露する事に違いない。しかし、だからといってここまで混乱させられて、簡単に引けるものでもない。
それを感じとって、ジャベルが声を張り上げた。
「いいえ!!皆さんもご存知でしょう?!!この男がいかに非道な事を行ってきたのかを!その男が、信用に値するとお思いになれますか?!!」
その言葉に、さらに会場のざわめきが大きくなる。
しかし、そこで立ち上がったものがいる。ランドーグの外交長官だ。
「その者が裏の世界にいた、という確固たる証拠が無い上に、あなたのいう事に対する信用性も低い。これ以上、我々は茶番に付き合う暇は無いのだがね」
「な・・・・・・…!!」
冷たい言葉に、ジャベルが顔色を失った。さらに別の所からも声が上がる。
「そうですな、ここから先はゼルガディス殿にお任せして、部外者は引っ込むとしましょう」
「に………!?」
発言者が、有力な国のものである事を知って、会場がささやき声に埋め尽くされる。その二カ国が、ゼルガディスを認める発言をしたのだ。そこを狙ったように、さらに三カ国の外交官が次々と立ち上がる。
「さて、結果くらいは教えてくださるんでしょうな?ゼルガディス殿」
「ええ、お詫びの書状に添えて送らせていただきます」
「それで安心した。きっちり知っておかないと、どうもすっきりしないからな」
老齢な、王族にして外交官の男性がそれだけを言うとさっさと会議場を後にする。残りの国の外交官も、それぞれに軽くゼルガディスに言葉をかけて出て行った。
最初に発言をした2人も次々に会場を後にする。
それに、最初は当惑していた各国の代表者達も、ざわざわと騒ぎつつも、次々と会場を後にして行った。
今回の集まりの中で、最も力を持つもの達が出て行ったのに、その場に残っていては後の外交に影響が出る可能性を考えたのだ。
そして、会場にはゼルガディス、レイス、ジャベル、リナ、眠ってるガウリィ、アメリア、フィリア、ルーシャ、そしてフィリオネルと、数人のセイルーンの重臣達だけになった。
閑散とした会議場を見渡して、ゼルガディスが可笑しそうに咽を震わせた。目の前には、呆然とした表情で、どこかを見つめているジャベルがいる。
「どうした?人数で、俺をおとしめる事ができなくて、呆けているのか?それとも、自分の身の上の危機に呆然としているのか?」
クスクスと、獲物を追い詰める猫さながらの表情で、ゼルガディスが囁いた。口調も、いつもの物に戻っている。
その言葉に、ジャベルの焦点が急速にゼルガディスに絞られる。レイスと同じ緑の瞳が、憎しみに曇って見えた。
「儂の危機だと?!!"レゾの狂戦士"と呼ばれ、残虐非道の限りを尽くしてきたお前など、叩けばいくらでもほこりが出るわ!!それを目の前にしても、まだその顔を保っていられるかな?!!」
「それでも、俺が現ル・アースの大公である事には変化は無い」
さらりと言いきるゼルガディスに、ぎりぎりとジャベルが歯軋りをする。
「貴様が本物だと言う証拠があるのか?!!そこのゼルガディスはセイルーンの調査をきちんと通過したんだぞ!!キメラごときが、そんなものをもっているはずは無いだろうがな!!」
その台詞に、セイルーンの重臣達がゼルガディスとレイスに注目した。もし、彼らが偽者を通過させてしまったのなら、重大な責任問題になるのだ。
けれど、リナ達はそれどころではなかった。明らかにゼルガディスを侮辱しまくった発言の数々に、怒りが溢れて止まらなくなる。けれど、本人たるゼルガディスが、そんなジャベルを冷ややかに見つめている以上、手だしはでない。ただ彼らを見ているだけしか出きなかった。
刺さるような視線の中、ゼルガディスは軽く微笑んだ。
「証拠、があればいいんだな?」
にやり、と口元を歪めると、フードの留め具の赤いブローチをはずした。
それを右の掌に載せ、何やらぶつぶつと呪文を唱える。
全員が注目する中で、そのブローチが、鮮やかな深紅に輝き出す。息を飲む人々の耳に、静かな青年の声が響いてきた。
『この者の名は、ゼルガディス・グレイワーズ。我が子孫にして、我が後見を得たル・アースの大公たる事を、この赤法師レゾが保証する』
「でっちあげだ!!!!!」
悲鳴のようなジャベルの言葉に、リナが勢いよく立ち上がる。
「いいえ!!その声は間違いなく赤法師の物よ!!!私は聞いた事があるもの!!」
「そうです!!私も、(コピーですけど)聞いた事があります。この私、アメリア=ウィル=テスラ=セイルーンが保証します!!!!」
セイルーンの王女の言葉にも、ジャベルはめげなかった。
「では!!ご本人を連れてこい!!貴様がゼルガディスなら、可能だろうが?!!」
「それは、できない」
「なぜだ?!!簡単だ、貴様が嘘をついているからだろう!!!」
ジャベルの勝ち誇った声に、ゼルガディスはブローチを戻しつつ、嘆息した。
そして、会場の者全員に聞かせるように、言葉をつむぐ。
「・・・・・・・…レゾは、もうこの世にはない。2年前に死んだ。俺が、看取った」
静かに告げられた事実に、ゼルガディスの仲間以外のもの達に驚愕が駆けぬけた。しかし、それはすぐに納得されたものになる。
彼が人前に姿をあらわさなくなって、約十数年が経過している。もはやこの世にいない、との噂さえも存在していた。それほどに、高齢であったのだ。
確認を取るように、重臣達がリナに視線を走らせる。視線の先で、リナが軽く頷いてその事を肯定した。
世間では色々と言われているリナも,セイルーンでは、その危機を何度も救ったとして,結構信用されているのだ。
重臣が、重くため息をついた。彼らもまた、認めたのだ。ゼルガディスが、レゾの近くにいた者だという事を。そして、ジャベルに騙されていた、という事を・・・・・・…。
ゼルガディスが、目の前で呆然としている男を見つめた。
同情の念は沸かない。まだ、罰は終わらせない。
そう思った時、右の瞳が何かを捉えた。すっと、視線を走らせると、アストラルサイドにゼロスが見えた。
手に持った何かを振って、そばの空間まで近寄ってくる。
その意図を感じとって、ゼルガディスはゼロスのそばに手を伸ばした。するり、とゼロスの持っていた物がゼルガディスの手の中に現れる。
その瞬間、ゼロスの思念が流れ込んだ。
『約束は、守ってくださいよ』
泣き出しそうな声に、それほどに上司が怖いのか、と呆れつつ、意識の中で頷き返す。それに満足したのか、ゼロスがふわり、と上空に移動した。どうも、事の経緯を見守るつもりのようだ。
どうせ反対しても、押し切るには違いないのだから、無視してジャベルに向き直る。
周囲の視線は、ゼルガディスの手の中に突然現れたものに注がれている。それは、肩にさげる程度の皮製バッグ。
それを、軽く叩いて、ゼルガディスが青と赤の瞳をジャベルにむける。
抑えていた殺気が溢れ出す。それを感じとって、その場にいるものが、一歩下がった。
ゼルガディスの気配は青い炎に似ている、とリナは思った。
青く輝く炎は冷たく見えるが、赤く輝くそれよりも、遥かに熱く、あらゆる物を燃やし尽くす。そばに在れるのは、炎にも溶けない輝く宝石でなくては無理だろう。
蒼と赤の瞳が、ジャベルを捉えてうっすらと細められた。
「さて、ジャベル。ここに、今までのお前の罪に証拠がある。密輸入・輸出、民に対する税の不法徴収、さらに人身売買。全ての証拠がある」
冷ややかに囁くと、バッグの中から次々と文書や裏帳簿、取引相手の証言書を取り出して行く。
それを一つ一つ手にとって、ジャベルがうなった。
その目の前に、ゼルガディスは一本の短剣を差し出した。それを見たジャベルが、ギョッとしたようにゼルガディスを見つめる。
「・・・・・…覚えていたか。そう、お前が俺の両親の殺しを依頼した男の、遺品だよ。こいつの使っている毒は特殊で、毎日少量ずつとっていくと、ある時劇的な効果をもたらして、いかにも即効性の毒を飲んだかのような死に方をするんだ。あの時の料理には毒が入ってなかった事はレゾが調べていたんでね。調べるのは、簡単だったよ」
「・・・・・…ば、馬鹿な。この男が死んだのは、お前が13のときだ、ぞ…?」
呆然と呟くジャベルに、ゼルガディスは何も答えずにその短剣を放り投げた。乾いた音を立てて、それが遠くに転がる。
「もう一つ、聞いておこう。ルーシャの目をつぶしたのは、何故だ?」
その言葉に、レイスとルーシャがびくり、と体を強張らせた。
リナ達は、驚愕で、声も出てこない。
ゼルガディスは、以前ルーシャの目を見た時に気付いたのだ。その傷が、事故では無く、人為的に手術を施されたものである事を……。しかも、恐らくは専門家の手によって。
会場の冷たい視線の中、ジャベルはぶるぶると拳を握り締めて、ゼルガディスを睨みつけた。計画が、全てこの男一人のために消えて行く。
昔から、そうだった。
大公の座も。
名誉も。
レゾの信用も。
兄と同じように、望むものを彼の目の前から奪っていく。
もう、何もかもが、どうでも良くなる。
「それがどうした!!事もあろうにこの娘は、レイスをたぶらかしたのだぞ!!たかが一介の村娘に過ぎぬ身で、レイスを惑わしたのだ!!我がグレイワーズ家に、こんな者の血を入れる訳にはいかんのだ!!!」
やけのような叫び声に、レイスが顔を歪めている。父親の罪を、次々に聞かされて。それでも気丈にジャベルを見つめている。
その視線を避けるように、ジャベルはゼルガディスだけを見つめた。
瞳に冷たい光を宿したゼルガディスがへたり込んだジャベルを見下ろすと、すらりと剣を抜き放ち、その額に切っ先を向けた。
「罪には、罰を・・…。ル・アース大公として下す」
会議場に緊張が走る。
ゼルガディスのジャベルに対する怒りは大きい。
それは、さっきから静かに流れてくる重い殺気だけで容易に知る事ができる。
だからこそ、誰もその場を動けなかった。ただ一人を除いては・・…。
アメリアが、勢い良くゼルガディスの背中にしがみついたのだ。
「駄目です!!駄目です、ゼルガディスさん!!殺しちゃ駄目です!!そんな事をしても、傷つくのはゼルガディスさんです!!!いやです!こんな人のために、ゼルガディスさんが傷つく事なんて、ありません!!!!」
嗚咽まじりのアメリアの言葉に、剣の切っ先がかすかに震える。
「もう、いいじゃないですか?!死ぬ事だけが贖罪だなんて、私には思えません!!ですから、どうか・・・・・…!!」
言葉がでてこずに、後はただゼルガディスの背中を抱きしめた。小刻みな震えが伝わってくる。
ameria
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by絹糸様
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傷ついたあなたを見てきた
いつも瞳が泣いていた
あなたは優しい人だから
もう傷つかなくていいはずだから
だから 自分から苦しまないで
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一瞬、けれど永遠のような時間。
ゼルガディスは、一つため息をついて、その剣をおろした。そして、背中にしがみついて嗚咽を漏らしているアメリアの肩を優しく抱きしめると、そっとその黒髪にくちづけた。
「大丈夫だ。殺しはしない。だから、泣くな?」
これ以上はない、というほどの優しい声で囁きながら、剣を鞘へと戻した。
zelgadis
|
by絹糸様
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曲がりくねった道の上
彼の前には剣と花
彼はそれを無言で見つめ
それにむかって手を伸ばした
揺るぎない瞳で掴んだそれは
白く柔らかな花だった
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そして、未だ放心したようなジャベルを見下ろす。
「ジャベル・グレイワーズ。貴様の罪の数々はもはや明白。よって、現在の地位、財産を没収し、その身柄をレイス・グレイワーズに預けるものとする!尚、貴様の、国での発言権は、一切を認めない。以上だ」
その言葉に、レイスがはじかれたように顔を上げた。
「に、兄さん・…・・・・・…」
「お前が決めろ、レイス。憎いなら、永遠に幽閉するなり、何なり好きにしろ」
突き放すような口調にも、どこか優しさが隠れている。それを感じとって、レイスが深深と頭を下げた。
そして、ショックのために呆然としているジャベルの傍らに膝をつくと、そっとその肩に手を置いた。
「もう、いいんだよ、父上。これからは、ゆっくりと、すごそう」
その瞳には、憎悪も悲哀も無かった。ただ、疲れ果てた父親に対する、深い同情の光だけが浮かんでいた。
そして、断罪は終わった。
jabel
|
by絹糸様
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愚かで哀れな罪人(ツミビト)よ
けれどそれは純粋だった
彼のたった一つの純粋な願いだった
血に汚れ 元の形もわからないほど歪んだ心
彼はそれを手に入れた
何もかも失ったその後で
たった一つの親子の愛
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