事業所得?雑所得?(R4.10.10追記)

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<この記事の概要>令和4年9月現在の所得税法基本通達の改正案(業務に係る雑所得の範囲の明確化)について考察します

業務に係る雑所得の範囲の明確化

最近、少し話題になっている所得税法基本通達の改正案があります。
ちょっと以下の文章を読んでみてください。

『業務に係る雑所得の範囲に、営利を目的として継続的に行う資産の譲渡から生ずる所得が含まれることを明確化します。 また、事業所得と業務に係る雑所得の判定について、その所得を得るための活動が、社会通念上 事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定すること、その所得がその者の主たる所得で なく、かつ、その所得に係る収入金額が 300 万円を超えない場合には、特に反証がない限り、業務 に係る雑所得と取り扱うこととします』

これ、現代をたくましく生きようとしている人ほど影響のある一文なのですが…
次から内容について解説したいと思います。

 

業務にかかる雑所得とは

まず、最初の一文
『業務に係る雑所得の範囲に、営利を目的として継続的に行う資産の譲渡から生ずる所得が含まれることを明確化します』
について解説します。

「所得」とは、収入から経費を引いた額のことを指しますが、現在の所得税法では、10種に分けられています。
例えば、給与所得、事業所得、不動産所得…といったものですが、その中で、どの所得にも該当しない所得を、「雑所得」と言います。
いわゆる「その他」みたいなものだと考えてください。

この「雑所得」も3つの種類に分けられます。
それは、「公的年金等」「業務にかかるもの」「これら以外のもの」となっており、
今回話題に出てきているのは2つ目の「業務にかかる雑所得」ということになります。

そして、業務に係る雑所得には、営利を目的として継続的に行う=事業的経済活動から発生する所得が含まれる、
と、改正案では言われているのです。

 

事業所得との違い

ちょっと待ってください、先ほど「業務にかかる雑所得」には事業的所得が含まれるといいましたが、
所得の種類には、それとは別に「事業所得」がすでにあります。
この違いは何なのでしょうか。

これを説明しているのが改正案の後半部分です。

『事業所得と業務に係る雑所得の判定について、その所得を得るための活動が、社会通念上 事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定すること、その所得がその者の主たる所得で なく、かつ、その所得に係る収入金額が 300 万円を超えない場合には、特に反証がない限り、業務 に係る雑所得と取り扱うこととします』

簡単に言うと、
①主たる所得であるか ②収入金額が300万円を超えるか ③事業であるという証明が行えるか
これらをクリアしなければ、事業所得ではなく、業務にかかる雑所得になりますよ、ということになります。

これまでは、事業所得、雑所得の線引きが明確でなかったということで、
改めて線引きをはっきりさせようというのが、今回の基本通達の改正案です。
ちなみに、改正案ですが、問題がなければ、令和4年分以後の所得税について適用開始となる予定です。

 

改正案が与える影響は

では、これらが改めて仕分けされることでいったいどんな影響がでるのでしょうか。
そのためにはまず、事業所得が持つ特典について知っておく必要があるでしょう。
代表的なものとして、次の二つが挙げられます。

・青色申告特別控除が最大65万円ある
・損益通算制度がある

青色申告特別控除とは、収入から経費を引いた事業所得から、さらに最大で65万円を控除できる
という制度です。直接的に節税につながるので、多くの人にとってうれしい制度ですね。
損益通算制度とは、事業の赤字をほかの所得と相殺できる、という制度です。

そして一番重要なのは、【雑所得には、青色申告特別控除も、損益通算制度もない】ということなんです。

これらを踏まえて例を挙げると…
これまでサラリーマンの方が、副業として何か事業をしていたとすれば、
恐らく副業の所得は事業所得として、上記の特典を使っていたことでしょう。
しかし改正案の適用が開始され、副業の所得について判定した結果が雑所得にになった場合、
青色申告特別控除で65万引いていたとすれば、65万×所得税率+65万×10%(住民税)分の増税です。
また、赤字となっていても、雑所得の場合、赤字部分は切り捨てですので、給与所得と損益通算できません。
その分、やはり税額は増えるでしょう。

 

なぜこのような改正案が出されたのか

今回の改正案は、趣味を事業化し副業として生かすことで、赤字が出ても、
本業の給与所得と損益通算して節税(?)するという、ネット上で流行った手法を意識したものだと思われます。
とはいえ、そもそも改正以前の段階で、調査の現場において、このような手法は否認されていることが多いように思われますが。

ただ、本来の趣旨とは別に、本気で新事業を行おうとしている人にとっては、反証が必要となり、
起業のハードルを上げることにならないか、その点は、国税庁のQ&A等で、手当を行って欲しいものです。

なお、この記事を書いている令和4年9月の時点で本件はあくまで改正案です。
正式に運用される場合には改めての通達があると思われますのでご注意ください。

 

R4.10.10追記 パブコメ後の最終改正案について

以前に書いた雑所得に関する通達の改正案ですが、結果が出ました。

青色申告特別控除や損益通算など、事業所得のメリットが使えなくなるということがあり、非常に話題になったためか、
パブコメが多数寄せられ、国税庁も方針を転換し、大分緩めた形に変更した模様です。
以下に原文を抜粋して掲載します。

事業所得と認められるかどうかは、その所得を得るための活動が、
社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判断する。
なお、その所得にかかる取引を記録した帳簿書類の保存がない場合
(その所得に係る収入金額が300万円を超え、かつ、事業所得と認められる事実がある場合を除く。)
には、業務に係る雑所得(資産(山林を除く。)の譲渡から生ずる所得については、譲渡所得又はその他雑所得)
に該当することに留意する。

カッコを飛ばして、読んでみて下さい。
要は、帳簿書類の保存がない場合には、雑所得に該当する、となっています。
流石に、事業所得の各種特典を使う方は、記帳ぐらいはしていると考えられますので、
実質的に、今回の改正のハードルは大きく下がったと言えるでしょう。

ただし、事業性のないものまで帳簿さえつけていれば、事業所得とするという改正ではないことに、ご注意ください。
→「社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判断する。」
では、その判断ですが、
・その所得の収入金額が僅少と認められる場合
・その所得を得る活動に営利性が認められない場合
上記のような、この改正以前から、事業所得と認められていなかったようなものは、
そもそも、帳簿を付けたからといって、事業所得に該当するわけではありません。

業界でも大分話題になっていたこの件ですが、思ったよりも、まともな決着がついたという気がします。
パブリックコメントの影響力を久々に実感した一件でした。

 

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