第一回放哉賞
第一回放哉賞の入選句が決定しました。すでに入選者には書面でもってお知らせしておりますが、改めて当ページでも発表します。放哉大賞には神戸市の木村健治様が受賞されます。  平成11年2月

放哉大賞 神戸市 木村健治様
鍵なくしている鍵の穴の冷たさ
作品評  渡野辺朴愁(随雲代表)
一日働いて戻ってさて家の中へ入ろうとして、確かに持っていた筈の「鍵」が無いのに困惑している作者の目の前の「鍵穴」の冷酷さ、非情さといったものが見事に表現されている。
入賞作品
コスモス咲いて風のゆくところへゆく  鳥取県  田中伸和
「風」というものは気ままなもの、「コスモス」を吹いて無表情に通りすぎていく。そんな「風」の様子を「ゆくところへゆく」と巧みに表現している。
上着を脱いで春風に抱かれる  倉吉市  谷田 越子
上着を脱いでそよそよとした春風のやさしさに触れるのだ。「春風に抱かれる」と、ぼかぽか暖い春の太陽も感じさせているところが巧みである
オリーブの匂い路地まで満ちる島  福岡市  合田 裕彦
これは、この小豆島のことを言っていると思う。「島」全体に「オリーブの匂い」がするといった感覚を「路地まで満ちる」と克明に表現している。
黄落やわが骨こぼれないように歩く  羽生市  金子 功
落葉の季節、己れの年令のことも何となく気にしての心象風な表現句だが、「わが骨こぽれないょうに」といった無機質な表現がおもしろい。
水仙たち岬の潮のささやき聴いている  長崎市  吉岡憲生
潮の動きにも春の息吹きが感じられる頃、水仙が一せいに花開くのだ。そうした光景を擬人法によって「水仙たち」とか「潮のささやき」と、やさしく表現している。
ゆっくり歩けば風景がおとぎ話を始める  枚方市  藤津滋生
これは作者の旅先でのスケッチだろう。何か伝説でもありそうな感じのする「風景」の中を「ゆっくり」と歩いてゆく気分だ。「風景がおとぎ話を始める」が楽しい。
枯木の影も枯れて今日の大空  名古屋市  日原正彦
葉を落とし切った木の影が、すっきり晴れた日の地上に映っている光景なのだが、この木の影を「影も枯れて」とみた詩感が冴えている。
陽が冬を海に突き刺す  横浜市  田中耕司
これは冷え切った夕陽が海に突っ込んでいく光景か、それとも太陽が冷えびえと海原に刺すように照っている風景なのか一瞬迷ったが、いずれにせよ「海に突き刺す」は圧巻。
自分なりに生きて今日の透明な秋空  坂出市  藤村弘子
よかれ悪かれ人は「自分なりに」生きるしかない、それで十分満足なのだ.そういった気分でみる「今日の秋空」の清々しさなのだ。
身勝手な風吹いてひっそり冬山  浜松市  泉沢英子
「身勝手な風」というのは・気ままに東へ西へと吹き廻す風だ。そんな冬山の枯れ果てたさまが巧みに描出されている手堅い作品だ。
入選作品
つばめが一羽電線にとまってゆれている  新見市  仁多 英夫
じっと見つめると止まってしまう砂時計  江別市  坪井 政由
ゆかたの素足が闇に消えた  伊東市  大川アツ子
吐き出したため息の嘘がひとつ  坂出市  渡辺 麗子
頭の中味はみんな捨てて山に降る星  伊那市  千葉津由子
窓は鈍行の夕陽に肩かけておく  昭島市  井戸 遊水
余分なもの捨てて冬木のトッカータ  浜松市  中村さと子
雲が形を整えるゆっくり生きようと思う  東京都  中塚 唯人
寺への路地放哉に出合ひそう  岡山市  里見世貴子
異邦人の顔して母の通夜に居る  浜松市  木村祥三郎
前ページへ戻る

「放哉」南郷庵友の会
Copyright(C) 1998 Hosai FriendShip Ass