配偶者の税額軽減

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<この記事の概要>相続税の税額を計算するうえで、配偶者にかかる税額は、一定のルールに基づき軽減される。その理由やルールの解説について。

なぜ配偶者の税額が軽減の対象となるのか

相続税の計算の仕方については、別の記事でご説明しているとおりです。

※相続税の計算の仕方についてはこちらの記事で解説しています → 「相続税の計算の仕方(前編)」
「相続税の計算の仕方(後編)」

「相続税の計算の仕方」の記事の中でも少し触れましたが、相続税の額を計算するうえで、配偶者にかかる税額は軽減される制度があります。
なぜ、配偶者の税額だけが軽減されるのでしょうか。
それは、以下の3つの理由があるためです。

配偶者の税額軽減の理由①
「被相続人の財産形成において、配偶者には貢献があると考えられるため」

例えば、勤め人Aさんとその配偶者Bさんの家計で、収入がAさんの給料だけだったとしても、
Aさんが無事に働くことができたのはBさんの存在があったため、つまりAさんが給料を得たのはAさんだけの働きでなく、
Bさんも貢献していたと考えられる、ということです。

これは専業主婦(夫)の場合も共働きの場合も関係なく、どんな場合でも同様に考えられます。

配偶者の税額軽減の理由②
「配偶者の今後の生活の保障をするため」

配偶者にとっては、被相続人と共同で積み上げてきた財産は、それまで生活の支えになっていたものであり、
今後も生活を続けるためには必要なものです。
ですので、課税対象とすることなく、配偶者に渡されるべき、と考えられるのです。

配偶者の税額軽減の理由③
「次世代への相続の時に、同じ財産に二度の税金がかけられることを防ぐため」

配偶者に相続が発生する時、多くの場合では配偶者自身も高齢であることが想定されます。
すると、最初の相続から比較的短期間で子世代への2回目の相続が発生する可能性が高いと考えられます。
こういった場合、連続する2回の相続の中で、同じ財産に複数回税金がかけられることとなり、
最終的に財産を受け継ぐ子世代の税負担が大きくなるので、それを避けるためという考え方です。

 

配偶者の税額軽減の額はいくらになるのか

では、具体的に配偶者の税額軽減とはどのように計算したらいいのでしょうか。

改めて、配偶者の税額の軽減とは、被相続人の配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した正味の遺産額が、
次の金額のどちらか多い金額までは、配偶者に相続税は掛からないという制度のことを言います。
① 1億6千万円
② 配偶者の法定相続分相当額

①は具体的な金額ですが、②のほうをわかりやすくするために、具体的な金額を例にご説明します。

※相続税の計算の仕方についてはこちらの記事で解説しています → 「相続税の計算の仕方(前編)」
「相続税の計算の仕方(後編)」

例)被相続人:Aさんには、課税価格=8,000万円の財産があり、
配偶者Bさんと子供2名(Cさん、Dさん)の3人の法定相続人がいました。

この場合、「配偶者の法定相続分相当額」は、8,000万円×1/2で4,000万円になります。
②は4,000万円ということです。
①はどんな時でも1億6,000万円なので、より大きいほうである①のほうが今回の上限額となります。

この後、法定相続通りに相続が行われたとすると、
配偶者であるBさんには4,000万円の財産がわたり、それに対して本来なら190万円の相続税がかかるところですが、
①の1億6,000万円までの財産については相続税がかからなくなるので、Bさんに対する相続税は最終的に0円となります。

ちなみに、子供であるCさんとDさんにはそれぞれ2,000万円の財産がわたり、80万円の相続税がかかります。

 

財産全部を配偶者に相続させたら……?

配偶者への相続税負担がこれだけ減らせるのであれば、
相続財産全部を配偶者に相続させたら、税額全体が減らせるのではないでしょうか?!

先の例で考えると、本来相続税の総額は350万円かかるケースなのですが、
全額=8,000万円を配偶者に相続させたら…
相続税は0円になりました!

ですが、これには少々落とし穴があります。
将来、この財産を受け取った配偶者が亡くなった時のことを含めて考えてみましょう。

課税価格は、8000万円で変化なしとします。

①一旦配偶者に財産を全額相続した後、配偶者から子供に相続する場合

まず1回目の相続では配偶者控除のため相続税は発生しません。

2回目の相続の時には法定相続人が子供2人だけになりますので、基礎控除の金額が以下のように変わります。
基礎控除=3,000万円+(600万円×2)=4,200万円
課税遺産総額=8,000万円ー4,200万円=3,800万円

そして、相続税自体の計算も以下のように変わります。
相続人は子供2人なので、一人当たりの法定相続分は3,800万円×1/2=1,900万円
1,900万円に対する税率等計算すると1,900万×15%-50万=235万
2人分合わせて235万円×2=470万円

②法定相続分の相続を二回行った場合

まず1回目の相続で配偶者、子供2人で350万円の相続税が発生しています。
配偶者の分は控除されるので、最終的な相続税の額は子供2人分の80万円×2=160万円となります。

その後、2回目の相続として配偶者が相続した4,000万円が相続されるとして
基礎控除=3,000万円+(600万円×2)=4,200万円

なんと、基礎控除の範囲内で収まってしまいました。

子供1人分の相続税の金額で考えても、①だと235万円、②だと80万円となります。

もちろん、それぞれの相続にはいろいろな事情がありますので、どちらが良いという話ではないのですが、
どんなケースであっても、慎重に分け方を考える必要があるのではないでしょうか。

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