放哉書簡集2  [放哉書簡集1] [放哉書簡集3]
Noあ て 先発 信 日発信地
1荻原井泉水大14・9・25南郷庵
2荻原井泉水大14・9・27同所
3荻原井泉水大14・10・3同所
4荻原井泉水大14・10・6同所
5杉本玄々子大14・10・7同所
6荻原井泉水大14・10・9同所
7荻原井泉水大14・10・11同所
8荻原井泉水大14・10・14同所
9荻原井泉水大14・10・18同所
10荻原井泉水大14・10・25同所
11荻原井泉水大14・10・26同所
12荻原井泉水大14・11・4同所
13尾崎秀美・並子大14・11・17同所
Noあ て 先発 信 日発信地
14尾崎秀美・並子大14・11・7南郷庵
15島丁哉大14・12・2同所
16井上一二大14・12・14同所
17飯尾星城子大14・12・18同所
18田中井児大14・12・21同所
19荻原井泉水大14・12・23同所
20飯尾星城子大14・12・24同所
21荻原井泉水大14・12・27同所
22井上一二大14・12・28同所
23荻原井泉水大14・12・29同所
24飯尾星城子大14・12・30同所
25飯尾星城子大15・1・3同所

 
 啓、小為替封入の御手紙本日着、例により感佩……扨一二氏御たづねした事と思ひます、シンミリお話し下すつた事と思ひます……何分共御たのみ申します……明日位、一二氏との御話合の手紙が来るだらう……と心待ちに待つて居ります、別段変つた事もありますまいけれ共……井児氏──色々申してくれるので──万事、井師一人と御相だん下さい、……只、井師の言葉が……即「実行」なんだからと申してやつた事です……なんか「品物」を送つて来てくれるのですか、相済まぬ事であります……「時々、衣類に不足なきや云々」……例により御気をつけ下すつて有難う御座います、何しろ、自分が寒くなる事故、大いに考へましてネ、呵々……大抵方法はついて居ります考(勿論、常称院の和尚からモラツタ……道行きを、羽織の代りに常用する考……妙な恰好の放哉坊が出来上りますよ、呵々)シカシ、ヒヨツとして……アンタの着古しの(綿入レ)をいたゞくかも知れぬが、之はマダ先の話し……只、例のシャツは「寒がり」の事とて、二枚位着ます故(一枚……ハ私の、今迄着テ居タ分を(ママ)送ラセマシタケレ共)モシ、之モ、着古しがあつたら、メリヤスシヤツの上下を、秋冬ヲ通ス分ヲ送ツテモラヒ得レバ……其外ニハナンニモ入りません(下略)
  井 さ ま      二十五日 放  生
 
 
 
  井 さま       二十七日    秀生(東京宛第二回目ノ通信)
 啓、東京へ帰られると、いろんな用事がつめかけて居て、いそがしい事と思ひます、ソレで、簡単に書かうかと思つたが、アナタ丈には少し長くなつても書いて見ないと、私の気がどうも済まぬので、とう/\書いてしまひました、夜、寝る前にでも読んで見て下さい……二十五日京都出の御手紙只今拝見、只、何も申す事無し……おかげに有之候……どうなつて行くか、アナタの御言葉通りに、ヤツテ行きます、それが一番よい方法と思ひます。さてこれから少し書きたい事は、全く、ゴタクですが、まあよんで下さいな、決して弁解は致しません、事実を申しあげる、まあ、夜長の一興位なところで……(中略)第一、アンタ、そんなに豪遊(?)するオ金といふものがありません……(中略)例の「監獄」にでも這入らなければコノ自分のホンネの沈静と云ふものは出来ないか知らんナド、時々思つてみる私なんだから、ムシヤ、クシヤした時は、悪魔主義に激変する傾向が大いに有るのですからネ……(一二君は、コンナ事ハ知りますまいよ、只、ヤケ酒の、淋しいから呑む位な処でせう)……私としては、今少し深い根抵から自分の「行動」が出て来る様にうぬぼれて居ますが(ソンナ事ハドウデモヨイデス)マア、そんな事でアノ際アレ丈のオ金を、ミンナ呑んでしまつた、郵便局に、手紙を入れて(タシカ、アナタの処へか?)其近所に一寸した料理ヤがある、其の前に、東京の「バー」の様なものがある、之に這入つた処が、誰も居ない、呼んだら向うから女が出て来た、オ酒を呑んでると、女はスーと帰つてしまふ、ナンテ無あいそな奴だらうと、ムシヤクシヤする、又、呼んでキクト、私は芸者ですから、イケマセン……仲居が今来ます……ナニが芸者ダイ、となるワケですネ、芸者ダカ、芋掘りダカ、ワカラン恰好ヲシテ居ルクセニ、オ酌の一杯モシナイナンカ、馬鹿ニシテヤガル……ト云フ様ナ事ニナリマス、其家はスグ出タノダガ、アトできくと土庄町一番の料理やださうで、笑はせますネ、ソコで、芸者君(内ゲイシヤ)大イニ威張ツタト云フワケ……東京者ニハワカリマセンヤネ……其ノ帰り、又、一軒よる、某家の妻君(夫婦)が昔有名ナ芸者ダサウデ(?)ムカシ、東京本郷真砂町ニ、囲ヒ者トナツテ居タト云フワケ……ソンナ事が無暗トウレシクナルモンデ、呵々……処へ女髪結が来テ、カミヲ結フ……コイツハワルイ者が来た……諸方ニシヤベリチラスナと思つたが果して正にしかり……ダカラ、私ハ其後、西光寺サンニハ……アノ、ムシヤクシヤノ一時的ノ出来事ニツイテハ、大イニアヤマツテ、了解ヲエテアリマス……一二君ニハナンニモ云はん、スマシテ居タモノデス……キツト、誰カラカ聞イテ居ルト、高を括ツて居タカラ……ソレカラ、西光寺ノ前ノ小サイ家デ呑ンデ(之ハ、タシカ、此店カラ西瓜ヲ買ツテ、西光寺サンニ、小僧サンのオミヤゲに持つて行かせましたと思ふ)……ソレカラ、仏崎、舟出(漁師の小供四人のせた)の一件……以上ニテ種切に有之侯、一寸、一二君ガ庵ニ来タ晩カラカケテ、翌日ト(其ばんハ庵に帰ツテ勿論寝タノデスヨ、決シテ誤解無キ様ニ)呑ミマシタ……処ニ、西光寺サンノ(私が(ママ)全部御話シテシマツタセイカ!)非常ナ厚意を受ケ、ソレ以来……門外不出……種ハコレ切リ──一二君ハ、ナント申シタカ知ランガ、全ク、コレキリ、奇れいニ白状シテオキマス……之デセイ/\シマシタ……どうか御安心下さい……コレカラ反対の方の御心配をかけるかも知れませんよ呵々(形容枯槁の方で)……万事は今日の御手がみの御言葉通リニヤツテ行きます」
 島ノ夜ハ、此頃、正ニ「半弦」の月……よい気持です、おかげ/\」
 島ノ近所ノ人が「アナタハ朝カラ机ノ前ニ座ツテ居ル計り……ウマイ物ヲタベルデハ無シ、別嬪サンモ、奥サンモナシ、ナニガタノシミデ生キテヰマスノゾイ」トキカレル時ニハ弱リマス、自分デモワケガ解ランノダカラ、呵々……トント話ヲセンモンダカラ、此頃ハ「病人扱ヒ」ニシテ……「アナタハドツカ御悪イデセウ」トキクカラ「エヽ、少々、弱ウ御座ンシテネ」ハイヽ気ナモンデセウ!呵々、結局「病人」ニナツテル方ガウルサクナクテヨイデスヨ、呵々、御笑ヒ下サイマセ、   サヨナラ
◎俳句、多クテ済ミマセンガ、ドシ/\取捨シテ下サイマセ、タノミマス、ドン/\作リマス。
 
 
 
井さま       二日 秀雄拝
 啓、此手紙が、アンタが東京出発迄に間にあふかと懸念しつゝ書きます。……と申すのは、只今西光寺の小僧サンが私を呼びにきまして、早速行つて見ると、……すで西光寺サンハ昨日帰寺したといふ、座に井上氏あり、三人鼎座にて話す。……巳に御両人の間には話出来てゐたと見ゆ。……結局、南郷庵安住……芽出度し/\と云ふワケ。之で、愈々結末がつきました。……ずい分色々な経路を通つて来ましたが、……難有う御座います。
 食ひ分はヱンリヨせずと申してくれ、……只、毎月の「五円」ハ、後援会でなく共、アナタの原稿の清書等があるから……ソレヲ、私に書かして支給するとの御はなしの由、……之は初耳で、……ドンナ物でもよ御座んす、お役に立つ事なら、書かして下さいませ。原稿紙に清書位は出来ませう。……御願申します。
 西光寺サンハ、作州に出張所のやうなオ寺が出来て、ソコに行つて居られたのですが、旅行前に私の処に、手紙で十円封じて来て、不足のものが有りましたら、之でおやりなさいと云ふ手紙、……私は驚きました。・……ソレデ、私の、かねての考へ居る事を申上て、有りがたい事だけれ共、返してしまひましたのです。立腹されん様に、よく、わかる様に申して置きました。……(之ハ井上氏ニハ内密の事)……之ハ勿論、私として、アタリ前の事ですが、一寸序ニ、私の心持の安定を申上旁ら御報告として置きます。……其の代りにオ寺から、「ジヤガ芋」と、「番茶」とをもらひますよ、呵々。
 今の放哉に、「安定」ダケあれバ、ナンのオ金が、たくさん入りませうか。・……井上氏も、「アンタは、安定サヘスレバ、ヂットして動かずに居る人ださうだから云々」と今日申し居り候。大分ワカッテ来てくれたのかと存候。ッマリ、之も、アナタが説明して下すつた結果でせうよ。ーー之で終。
 只今オ寺から庵ニ帰つて、スグ此手紙をかきまして、御安心の結未を乞ふ次第であります。(中略)
 今日、コンナ句が出来て、一寸、嬉しかつたですが、どうでせう?
  「追つかけて追ひついた風の中」
 追つかけて来て……として居たのですが、(来て)ヲトリマシタ。
 
 
 
(前略)小生の「句」多くてお困りでしたらう、おいそがしい中を……アンマリよいのはありませんか、マア、けなされなかつた丈、メツケモノと云ふ処ですネ、一日に必、十句ハ精進して居ります、カナリ近頃は推敲もして見ます、其の内には……近いうちにはホメテもらう時が必来ると信じて勉強して居ます、只、数の多い丈は御許し下さい、私としては、ドンナ、マヅイ句であつても、それがホントに吐いた言葉で、嘘で無いもの、作りもので無い故、捨てゝしまへないので、ソレデ、なんでもかんでも、コミにして、アンタの処に突つ込んで置くのです、丁度、不用だけれども捨てられもせず、人にやられもせず、毀されもせぬ物を、ミンナオ寺にあづけて、安心して居るやうに、呵々、アナタはオ寺なんだから、御めん下さい。(下略)
  井さま        五日           放哉
 
 
 
   玄々子様榻下      放哉生
 拝啓、先日ハ失礼いたしました。色々御尽力様で、御厚志の結果、兎ニ角く当庵に安住させていたゞく安心を得ましたので、マヅ落付いて今日を送らせていただきます事、全く、一に、あなたの御恩と更めて御礼申上げます。どうせ人間の事で御座いますから、近いうちに死んでしまふものやら、ソレトモ、又、将来どう変化しますものやら、とんと、其の辺は不可解なわけでありますが、兎に角く安住の心持で居れと云ふ事になりましてから、所謂、「日々是好日」で、今日に感謝して、今日を安らかに送らせてもらつて居る次第で御座います……私は、此の安らかな気待をひとえ待ち得た事を、偏ニ感謝致して居る事であります。……井上氏に対する私の感じは、井師氏も十分了解、色々と申して来てくれて居ります。私も、井上氏は「よい人だ」とは信じて居るのであります。が、只、オ金持の息子サン丈けに、ホントの苦労を御存じないから、私のやうな、野人の、取扱ひには一寸、骨を析られた事と御察し申します。而し、事が、キマリさへすれば、別に井上氏を心配させる種子をまく様な事は決して無いのでありますから……兎ニ角、引つくるめまして、御恩の御礼を申上げて置きます。』……此間ハ又お砂糖やら焚付やら葱やら、色々御送り下さいまして、御厚礼申します。ジヤガ芋は大変、うれしう御座いました。サッマ芋は、うまいですけれ共、常食にすると、少し、嫌味が出て参ります。ラツキヨも嬉しう御座いました。……只今、庵は、たべる物は十分御座います。私も、「庵」をお掃除して、お大師さまに「お光り」をあげてゐる丈けで、……只タベサセていたゞいてるのも、甚相済まぬ次第とも思ひます……ソレデと云ふ意味でもありませんが、消極的の奉仕の意味で、ナル可く、質素なものをたべて、御馳走をたべぬ事にし、オ米も焼米位な処で、普通の人よりも一つ下の食事でヤッテ行くと申す事は奉仕生活でもあり且又、アナタに対する御礼でもあり、仏恩に対する感謝でもあらうかと考へて居る次第なので御座います。……御礼』
 話しが変ります……丸亀の内藤氏の処からアスコの句会、潮光会を開いた・……之から大ニ元気を出すとて寄せ書きをおこしました。コチラも、今少し、おヒマもありますまいが、三人会合の句会でも出来ぬものでせうか、御一考を願ひます」。井師ハ、七日の夜東京を立つて京都にもどるさうです。色々ゴタ/\して、東京で、大水が出たり、層雲社の床下に水が這入つたり……又層雲社のスグ近所に火事があつて一時あぶない模様だつたが無事であつたさうです。ソレヤ、コレヤ、大分多事だつたさうで、層雲も遅刊したらしいです。五十年来、レコード破りの東京の風雨だつたさうです。「火」「水」にやられては、タマリませんでしたでせうよ。ソレデモ無事でよう御座んした事です」女性、中々面白いです。二冊よんでしまつたら、風呂いたゞき旁、他の分とかへてもらひに、参上します。風呂と云へば私の風邪、丁度一ケ月、之もアノ売薬で(三枝の)、ナヲラズ、遂に、神戸の山口と云ふ同人(小生顔なじみで一度泊つた事もありますので)……山口旅人です。此ノ医師にたのんで、……「薬」を送つてもらつて昨今呑んで居ますが、大分よささうで、此の調子なら、風呂に入れてもらひに行つてもよいだらうと思つて居ます……旅人曰く、症状によれバ、急性気管支カタルならんと……小生曰く、早く治してくれぬと死ぬると必、『トッ付く可し』と申してやりました。此具合では「トッ付かぬ」でもよささうです。……而し、コンナに長い風邪ハ初めてでありました」。オ祭が来ましたさうで、私ハ祭ハ見ないでもよいから井上氏の処は十三日が前日故、御馳走丈モラウ約束して置きました。……土庄町は十五日が御祭ださうでありますから、十四日でも十五日でもよろしう御座いますから、ドウカオ寺の御馳走ダケいたゞかして下さる様今から御願申して置きます。時々は、「腹の虫」にもうまい物を、たべさせて、やる必要がありさうに思ひますから、奥さんにもよろしく御願申し上げます。「油」をいたゞきに、前の家の小供が行つてくれますから、序と申しては誠に失礼ですが、先日の御礼を申上げ度くて書きました。 敬具
 ○それから之は余談で有りますが、来年三月頃のオ遍路サンのいそがしい時は、小生大に、撚をかけて奮闘して、従来の、収入があがる様、懸命にやります。何故なれぱ……第一、小生、自分の……生活に、一に、干系を及ぼす事なのですから、今の様に、朝から遠くの机でブツリとも云はずに、ダマッては居りません。必六畳迄出張に及んで、大に、(ローソク)を立てゝ鉦を叩きますから、御安心下さいませ……ホントですよ。
 
 
 
(前略)今日はお大師サマの日(旧の二十一日)ですけれ共、サツパリまゐつて来る人も無い……只松風ばかり』
 ハガキで……小包の中から何が出るか、。アテてみよといふ事でしたから、ハテ、オ菓子でも這入つて居るかな、小サイ人形でも出て来るかと思つて居たのです。今日、昼便で小包着、早速ニコニコしながらアケテ見る。風呂敷の糸を、タンネンにとつて、二枚フロシキが出来て大変有難い、今迄「芋」かなにか包んで行つたり来たりするのに、井上氏の処から一枚借りて居ましたのです、色々有難う、放哉、俄かに衣裳モチになつてしまつて、之丈着れば、寒い事はありません……中から頗る古風なサルマタが(白い)出て来たのは面白かつた(アレハ中々涼しさうでよいです)ソレカラ、奈良の鹿の皮の財布と同じ色合で、又模様もその様な絹の帯(ヤハラカイ四角な)は、正に乞食放哉の着用す可きモノぢやない、上等すぎますよ……帯と申せば、多分……寝巻の(?)帯迄、すまぬ事です……(皮の手提げ)はコレカラ大いに重宝になる事と思つて居ます、シヤツもヅボン下もあるし、「寒サは何時でもヤツテ来い」と、大いに心丈夫になつて居ます……コレデ何もかも有ります、偏に御礼/\』
 其後、庵は益々平穏無事、何しろ門外不出ですから……アンマリ報告する事がバツタリ無くなつたので、ボンヤリして居る形です……その方が結構なのです』(下略)
 之から京都はよいですな、秋の京都……諸方を又、ヒマ/\に御散策の事でせう、紅葉は、コレカラですネ……イツゾヤ永観堂の紅葉の下の床几の上で、二三人で「謡」をうたつて、オ酒を呑んで居たのに……京都ダナと云ふ気がした事でしたが……悠然とした気持で此の筆を擱き得る事を更めて感謝いたします。
 荻原様 榻下    八日                尾崎生
 
 
(葉書)
 啓、層雲……咋日着、大分厚いものが出来ましたな……ポツ/\読む考で居ります、……例の「絹の角オビ」ネ、うれしがつて、早速着用に及んで居りますよ……腹の処ダケが立派なので、「腹」をたゝいて大いに得意になつて居ます、サヨナラ
 
 
 (葉書)
 啓、オ祭……島デハ年中ノ最大行事ラシイ、皆、新ラシイ下駄ト、新ラシイ(シヤツポ)ヲカブツテ、嬉々として歩いて居ます。昨夜、オ祭ノゴチ走ヲ、西光寺サンハジメ、向フノ家等カラオ酒ヲツケテ、モツテ来テクレル、大イニ面喰ツテ、而し呑ミマシタ、弱クナリマシタヨ、大イニ酔フ……今日ハ又、淵崎のオ祭リ……約束ガシテアルノデ又、御チ走になりに井上氏ノ宅へ行キマス……而シテ、酒呑ンダコトワリを申します……其(呑ンダ)事ヲ、アヤマル意味デ一本。匆々
 
 
 
 啓、此頃、島ハオ天気ツヾキ、ソレニ、昨日ガ神嘗祭、今日ガ日曜日、其ノ前ガ丁度オ祭と云フノデスカラ、オ祭気分ガ今日迄持チ込ンデ来テ居テ、町モ村モ、賑カラシイ、一寸卵子ヲ買ヒニ行ツテモ無イ(皆メイ/\ノ家デ、オ祭ニタベタリ、売ツタリシテシマフ故)タマ/\、鶏ヲカツテル家デモラフト、一ツ七銭カラ七銭五厘……物ガ高クナツテマス……之デハ商売人ノ家デカヘバ、十銭以上ハドウシテモ取ルデセウ……何シロ、放哉ノ生活ニハ此ノオ祭ハ甚不自由也……但、今日デオシマヒダラウト思ヒマス……コノローカルカラーノオ祭デ、都会ニ移住スル人々ノ「足」ヲ止メ得レバ幸ナレ共、ドウデスカナ……何シロ、都会ノ祭トハ異ツタ大シタモノデスナ……(人々ノ気分ガ)今日ハ旧ノ九月一日デスヨ、書ク急件ト云フ物モナイカラ、近頃一人デ考ヘテ居ル事ヲ書イテ見マス……(中略)
 マア、ソレハソレとして、次ノ事モ旅人君ガ北朗君ヲタヅネタとしてみれば已ニ御存知ノ事卜思フカラ、書キマス……私ノ病気ノ事……
 入庵以来、風邪ガモトデ……売薬五十銭二包、ホシノ三十銭ノ包一ツ、根気ヨク呑ンダガ中々ナホラヌ、已ニ一ケ月位ナホラヌ……益々ワルク、昼モ夜モ、咳通シデ、咳ハ出ル……夜ハ寝ラレズ……之デイヨ/\死ヌカナ……「今ガ放哉ノ死ニ時カモ知ラン」ナド考へテ居タノデスガ……何シロ苦シイので……(医者ニカヽル事ハシツテルガ)神戸ハ近シ──旅人君ノ家ニイツカ大イニ厄介カケテ、普通以上ニ知リ合ツテル中ダシ……ト思ツタノデ、タノンデヤツタ処ガ……其ノ症状デハ「急性気管枝炎」ラシイトシテ、「薬」ヲ送ツテクレマシタ、大イニ感謝……私ハ「喘息」ニナツタカト思ツタガ……キカンシ炎ト云へバ、肺病見タイナモノダナ、呵々……矢張リ、死ンダ方ガヨイカナト思ツタガ……其ノ「薬」ヲ呑ンデルト、追々とヨクナリマシタ、已ニ発病以来二ケ月弱デスカラ……少々、コヂレテ来テ居ルラシイ、ソレデ……此間、非常ニ寒カツタ日カラ、又少シ「咳」ガ出ルノダガ、其後、旅人君ノ「神薬」ヲ呑ンデヰルト、大イニヨクナツテ来タノデス、今日ナンカ非常ニヨロシイ──故ニ、決シテ御心配御無用/\、私ハダマツテ居ル考へデシタガオ医者サンガ「入洛」シテ見レバ──以上申シテオキマス、決シテ/\心配シテ下サイマスナ……二三日スレバ、全快シマスヨ、一ツハ、栄養不良ノ為、早ク全快シタイト思ツテ、実ハ此手紙ノマツサキニ書イタ「卵子」ヲ買ツテ、時々呑ムノデス、大イニ贅沢也……苦シイノニ一番閉口……然シ、モウ、ヂキワケ無クナホリマス──
 「焼米」デハ、ナホリがオソイト見えますネ、人間のカラダハ困つたモンデスナ……
之デ失礼。
 井師 榻下         十五日              放生
 
 
 
 啓、今「原稿」着……御意思ヲ守ツテ、ナル可ク一日モ早ク返送スル考デ居リマス、……今日「れうチヤン」より、名文達筆の、テガミをもらひ、大にうれしく、但、ウレシク無イ事ハ、(「此間ノ松タケ、オ宅マデ、トヾカナイノデ、ヒキカヘシタトノ事」デ、通知ガアリマシタカラ、今日又中味ヲ、トリカヘテ、駅送リニテ御送リ致シマス、ドウカ、コレヲモツテ、トリニ行ツテ下サイ、御願)……と云ふワケデ実ニ、妙ナ事ニナツタモノデ、……何日、マツテモ来ナイ筈デスヨ、呵々……又、コンド駅送リデスカラ、高松カラ、舟デ、コヽマデ来テ、ドコカニ保管スルカ今ソレヲ、タヅネテヰマス、ソコ迄、此ノ受取書ヲモツテ、出カケルワケデアリマス……アノ松たけ実にエライ松茸ニ有之候、呵々……ヤハリ、乞食放哉ガ、松タケナンカ、喰ベヨウと思ふからコンナにして仏が示シテ下サル事ト思ツテ居マスヨ。(下略)
 荻原 様 侍史      二十五日            放生
 
 
 
 啓、此手紙、京都ニ出シマス……病気全快乞御安心……(中略)
 次ガ、大変ナ、マツタケ……コン度ノ松タケ位、大変ナモノハ無イ……封入ノモノ(れうちやんノ送リモノ)ヲ出シテ、大イニ考へテ居タ処、ユーベ、夜分ニナツテ、高松桟橋より……ハガキ来ル(小荷物茲ニ在リ、早速、トリニ来レ)ソレカラ、村ノアル人ヲタノンデ、今夜、高松ニ船デ行く、荷船ノ人ニ、其ノハガキヲタノミコンデモラツタワケ、多分、今晩……其ノ松タケがとゞくダラウと云ふ事です、ヤレ/\……松タケ、正ニ半分以上ハ、報酬モノト覚悟致居申候(タノンダ人ニ)呵々。○第一、ナゼ、最初ノ便ガ中途デ、逆送サレタノカ、之ガ、アヤシイデスネ──宛名ガチガフ事ハアルマイシネ……此ノ松タケ実ニエラシ、高松カラノハガキデ受取(封入ノモノ)ハ不用。面白イキネン故送リマス……
 コゝ迄書イテ又、御願ト云フワケデハナイガ、私ハ元来大変松タケガスキナンデスカラ、コレカラサキ、ウント安クナツテカラデヨロシイ、惣菜モノニ、ザク/゛\煮込ンデ、外ノモノトイツシヨニ煮テタベタイノデス──御気ガツイタ時ガアツタラ、ウント、アトデヨロシイ故、ドンナノデモカマヒマセンカラ、惣菜用ニ送ツテモラヒ得レバ幸甚ト思ヒマス』
 今日ハコレダケ……アヽ、御礼ヲ云フノヲ忘レテ井マシタ、難有う/\(殊ニ中味ヲ二度モ代ヘタト云フノダカラ、スミマセンデシタ)
  荻 原 様 侍史     二十六日夜           放生
 
 
 
 啓、此手紙着く頃は御帰洛かと思つて居ります、よい時候ですから、御旅行も御心持よかつた事と存じます、島の方ハ別して変つた事も無之候、よいお天気つゞきであります、庵の東側の山よりの小さい庭に、黄色な目玉菊が、たくさんに毎日咲き出したので、何よりうれしく、毎日、朝からこればかり見て居ます、お大師さま、お地蔵さまに、何遍折つて来て、さしてあげても、アトから、アトからと、咲いてくれます、実にうれしい、ナル程、黄菊白菊其外の名は無くもがな、であります、そして大きな菊よりも、寧ろ、コンナ、小さな、目玉菊の方が、庵には、又、私には、ふさはしい気がして居ます。
 此間、風邪で、一週間程臥床して、五十句、病床吟を送つて置きました(層雲社へ)来月でも亦、ゆつくり御らんをねがひます。
 例の、大さわぎの松たけ、正に落掌、大丈夫、くさつて居ませんでしたから、御安心下さいませ、そして、更めて御礼申します、又、れうちやんの手数にも、御礼申します。
 只、コンナ事申し上げんでもよい事だが、書いて見ませう、桟橋の保管料とか、庵迄の運ちんで、皆で、九拾弐銭もつて行きました、之は全く、最後の、一番の、粗忽者の放哉が、時日を、おくらかしたタメに生じた事、自業自得……最後に、私の大なる粗こつ者を発揮したワケです。呵々
 此間の手紙、ナンダカ叱られた様な気がして淋しい……病気で寝てゐるセイもあつたでせうし何もかも、私の、そこつ者に御許し下さい、之からは、大いに、つゝしんで書く事にします、大いに考へます、他人様の事など申しません、自分の事を考へねばなりません。
  荻原 様    十一月四日              尾崎生
 
 
 
 啓。(オ金ハ一文モイリマセヌカラ安心シテヨンデ下サイ)
 八月十八日、門司発ノ舟デ台湾行ノ考ヘデ出カケテ、此島ニ知人アリ、ヨツタノガ因えん。
 今、私ハ、或ル島ニ……『庵主』トシテ、朝ばんオ仏壇ニオ経ヲアゲテ、私一人、くらして居ります・…・此島ニ一人ノ老人『ハツケ見』アリ、此人ノ見タ処力……実ニ驚キマシタ・……私の事ヲナンデモ知ッテル、……・マア、ウソト思ッテキイテ下サイ、……私の家(尾崎家)ハ紀州力・……南紀伊カラ、南北朝合戦ノトキ、追ワレテ逃ゲタモノデスカ?(私ノ家ニ系図ガアルト面白イガ)……ソシテ女房ノ方ノ名ニカクレテ命ガ助カッタ、家ダソウデス……コンナ事聞クデス『アンタノ母方ハ絶へマシタカ、ビロクシマシタカ?』・…
 之ガ非常ニイカヌソウデス、母方ノ為ニ恩ニナリナガラ、母方ノ家ノ亡プノヲ、ダマツテ見殺ニシタ…,ソレガ『私ニタタツテ来テル・…私ハ一生仏サマニ『墓』ノ掃除ヲシテ、クラス様、尾崎家ノタメニ出来テルソヲデス、呵々。(私ノ生レル時カラ、ソヲナツテルノダソオデスヨ、ナンデモ此老人ハ知ツテル、コワイデスヨ)
 ソレカラ、私ノ兄キ夫婦(ツマリアナタ方)が、オ金ガ出来レバ、出来ル程、私トハ遠クナル……(コレハコマリマスネ、呵々)ト云フノデス……オソロシイ老人の、ハツケ見デスヨ……兎ニ角、私ハ尾崎家ノギセイになつて、……人ノ墓ヲ、キレイニ掃除シテアゲル様ニ、ウマレタノダソオデス……厄介ナモンニ生レタモンダ、呵々……マダ色々アリマスガ、之レデシマイ、(此老人、ナンデモ知ツテマスヨ、ビシ/\未来ヲアテル)……『初』『菊』死ンダノモ……何ウモ変ナ事ガアル由、老人、ハ申シマス……。『私ハ思イアタル事ガアリマス……コレダケ』
 コノ次ハ、何年後ニ、御通信シマスカ、ワカリマセン……御長命ニ遊バセ』
 或ハ之ガ、オワカレカモ知レマセン……御長命……不孝ナ『子』デスカラ『父上』ニハアナタ方カラ、ヨロシク願ヒマス……命ガアッタラ又、……イッカおタヨリ致シマス……
 此写真、人ガトツテクレマシタカラ、私ガ死ヌ前ノキネントシテ送ります。サイナラ、御大切ニ、モウ母ハ死ンダデスネ、御長命遊ばせ。サヨナラ。
       大正十四年十一月十七日
 御両人さま     於南海孤島 単独生出
 
 
 
  御両人様
 啓、写真、ツキマシタカ……笑つて下ざいオカシイデセウ……此の短冊……私の絶筆と思つて下さい。全ク、イツ死ヌカワカリマセンカラ、送ります・……コノ頃母ノ事ばかり思はれてなりません。母が呼んでるのかも知らん、早く死にたい。初ヤ菊ハヨイ時ニ死にましたネ、……・『花』の時に、呵々・…・
 (私ハ勿論、廃嫡ーーお願します。行方不明にしてーー理由を)
 私ネ、此ノ頃『俳句』が上手になつて、今一寸、先生といふ処……日本中、殆んど、俳句会員無き処無しといふ有様、……私ハ『法科』ヨリモ『文科』ヘ行つた方がよかつたかも知れぬ……・人にウソがつけぬ性分故……・大分、オ弟子がありますよ、呵々……モウ一文モ、モライませぬ、御安心下さい、兄サンニモ厄介になりました。但し之が、前世の尾崎家の『業』ださうだから許して下さい……姉サンノ、ハレル腎臓病は、よろしう御座いますか?
 只、毎日『仏』ニお経をあげて居ります。そして、そのオ仏だんニハ……(真言宗デスガ)(お仲、初子、菊江)と書いた紙が、ハリ付けてあります。……戒名を忘れたものだから、俗名で……毎日、朝ばんお経あげて居ます。……そのオ経が又禅宗ノオ経ダカラ面白イデセウ……マルデ、八宗兼学也、呵々。
 私モ、ヨイかげんで、早く死なせてもらひたし、私ノ短冊ノ『号』ノ放哉トハ……ナンニモ放ツテシマツテ、今ハ、カラダ一ツデ居ルワイ(哉)『タツタ一人デ、ナンニモ無イ』ト云フ処ニ有之候。
 オ大切ニ、御二人ともなさいませ。
 コレカラハ天下の、俳句の先生デスカラ、オ金、一文モ要求シマセンヨ、呵々。
 但呵人々が。キイタラアンナ馬鹿モノノ、、ドコニ居ルカ知ラヌト申シテオイテ下サイ、呵々。
 『短冊』ハ此間アル人カラ、タノマレテ、書イタ残り一枚ニカキマス(九州ノ人)
 『秋風ニ吹カレ居ルワレニ母ナシ』 放哉
 米子の河村〈本〉緑石(農学校ノ先生ヂヤナイカナ)
 第二中学校教師、中原光石路
 智頭宿、重村百堂(印刷ヤ? 雑誌モオコシマス)
 コンナ人間がーー(鳥取県デハ)私ヲ先生々々ト云ツテ来マスガ、知ツテマスカ?見タコトモ無イ男デスガ…呵々。
 
 
 
 啓、扨御質問ノ件……一寸手紙デハ私ノ考ガ諸君ニ徹底シナイ処ガアルダロト思イマスケレ共、膝組シテ、オ互ニ話シアウワケニハ今ノ処行カズ、遣憾千万ダケレ共、マア、筆ヲトッテ見マス、最初ニ、御承知置キ願ヒタイ事二ッ三ッ書キマス。
 (一)此ノ信念ハ、放哉一人ノ考デアツテ他ノ人トハ異フカモ知レマセンカラ、……乞御承知。
 (二)私ハ、アナタ方ノ「個性」ヲ延バス事ヲ尊重スル点ニ於テ、主観句カラ這入ツテコラレ様トモ、又客観句カラハ入ツテ来ラレ様トモ、ドチラデモカマイマセン。何故ナラバ……私ニハ、客観ノ句デモ、主観ノ句デモ同様其ノ人ノ個性ガヨク、解ルカラデス。デスカラドチラデモ同ジ事、同様ニ尊重シテ居リマス……デスカラ、主観句デモ客観句デモ、ドチラナリ共、御勝手次第デス,……余だんデスガ、所謂、客観句ニ個性ノ出方ガ少ナイ(主観句ヨリモ)ト思ツテ居ラレルノハ、私ニハマチガヒト思イマス。ドチラノ句デモ「個性」ハハツキリ出テ来ルモノテス。
      ……口上ーツ、乞御承知、……
 扨、話シガ余り、干系ノ無イ放哉ノ寝言ト思フカモ知レマセンガ……実ハ此ノ点ハ、俳句以外ニ、少々読ンダリ、聞イタリシタ事ガアリマシテ、今日、遂ニコウ云フ信念ヲ持ッテ居ルノデアリマス……
 アル老僧ガ、一師匠ノ処ヲ尋ネタトキ、其ノ師匠ガ「仏心如何」ト質問シマシタ、……老僧之ニ答ヱテ「光風審月」ト申シマシタラ……其師匠ガ……(キサマヨイ年ヲシテ、ソレデ悟モ何モアルカ、クソダワケ)ト申シマシタ……其后、再、此老僧ガ……此ノ師匠ヲタヅネテ、コンドハ、コチラカラ……質問シテ「仏心如何」トキイタラ、其師匠直ニ答ヱテ「光風審月」ト申シマシタ、……即チ同ジ言葉デアリマス、ソコデ此老僧ガ悟入シタト云フ事デス……之ハオ話シ。
 △同ジ智慧ト申シマシテモ、仏ノ智慧ト、人間ノ智慧トハチガイマス。
 △同ジ慈悲ト申シマシテモ、仏の慈悲心ト人間ノ慈悲心トハチガイマス。
 △同ジク、差別界ト申シマシテモ……一度、無差別界ヲ通過シテ来タ差別界トハ大ニチガイマス。
 放哉ハ俳句ハ詩ト同時ニ宗教也ト申シテ居リマス(星城子君ニモ常ニ申シマスコト)於茲、非常ニ苦心スルノデアリマス、……何故ト申スニ、自分ノ人格ノ向上ニ連レテ私ノ句が進歩スルヨリ外ニハ私ニハ途ガナイノデアリマスカラ自己ノ修養ニツトメナケレバナリ?マセン……ソコデ句作リガ私ニハ、大問題トナツテ居ルノデアリマス。
 △「愛」ト申シマシテモ、自分ノカヽ人ノカヽヨリ可愛ク、自分ノ子ハ人ノ子ヨリ可愛イヽ、之ガ人間ノ「愛」デアリマス、処が仏ノ「愛」ハソンナモンデハアリマセン、……同ジク愛ト申シテモ天地ノ差デス……吾々人間ガ、ソコ迄行ク事ハ到底、不可能トハ思イマスケレ共、……只、努力修養シテ居ル次第デアリマス、ソヲシナケレバ、「句」ガ進マナイノデスカラ。
 △一ト口二、「主観」トカ「個性」トカ申シマスガ小供ノ「我ガ儘」モ主観ニチガイナイシ、又個牲ニチガイナイ、ソレヲ尊重スルノハヨイガ……淫シテシマウト、子供ハ死ヌデセフ、又、不良少年ニナルデセフ、コヲ云フト私ノ(主観)ハ大変ムヅカシイヨウダガ、吾人ハ不用意ノウチニ知ラズニソノ主観ヲツカンデ居マスヨ、アンタモ此事ハオワカリダト思フガ、勿論主観(或ハ個性)ハ大切ダケレ共、ソレヲ錬ッテ/\、大自然ノ大客親ノ「穴」ノ中ヲ押シ出シ/\テ、大自然ト一致シタ主観……ソヲ云フ意味ノ主観也、個性也デ、私ハ「句」ニ精進シテ行キタイト思フノデアリマス。
 勿論「放哉」ハ、ホンノソノ道程ニ有ルモノデアリマスガ、乍失礼、諸君ノ句を拝見スルト、主観/\又ハ個性/\ト云ハレルガ……ソレガ皆、・……(我が儘)デアリ、(一人ヨガリ)デアリ、(自己陶酔)デアリ、修錬サレタ又、レフアインサレタ主観デナイト思エルノデアリマス……ソコデコンナ主観や個性ナラ西ノ海にサラリと云ウワケデス、デスカラ常ニ私ハ……各方面ニ於テ自己ヲタンレンして行ケバ……句ハ自然、人格ニツレテ、アガルト申シテオルワケデス。
 但、トテモ、ムヅカシイ事ナンデスカラ死ヌ迄ノ努刀ト思ッテ、放哉ハ研究精進シテオルノデアリマス。
 〇此ノ誤マレル……安価ナ、「主観」デ・……只、自分ノ思ツタ儘デ、他ニ一向、オカマイ無くーーカツテニ出シマスト必、之ガ「自己陶酔」ト云フ奴ニナリマシテ、……マア(自分ノ家ノ中デハ亭主関白ノ位)トナリ、他人ノ選句ナンカ、ウケタクナイと云ふ、所謂野狐禅ニオチルモノデアリマス、(オコル勿レ/\、呵々)私ハ「俳道」ハソンナケツノ穴見タイナモノデ無イト自信シテ居リマス。
 
 コンナ事ハ書キ出シテキタラ、今ク十枚カイテモ二十枚カイテモキリが有りません。…話シアツテモ、ムヅカシイ問題ナンデスカラ、アンタノ書イテ来マシタ三句ノ例デモ・……
 △白粉べタ/\ぬつた看護婦叱つてゐる……
 一体、何故、白粉ツケタ、かんごフヲ叱ルノデスカ・……叱ラナイデモヨイヂヤナイデスカ……・ソコガ人間ノ小サイ智慧トカ、分別トカ云フ奴デ……患者ニ対シ、デレ/\シテ居ル様デ面白クナイトカ、……不真面目ダト云フノデ叱ルノデセフ……其ノ人間ノ〈小細工〉ヲ出シタラ句ハメチヤ/\ニナル、私ニハコンナ主観ハ(或ハアンタゾ云フ客観? どちらでもよし)……クサクテダメ也ト申スワケ也。
 △目の玉ぬいてやつて一ふくしてゐる
之ハアンタハ自己ガ非常ニ出テルト云フケレ共、出テ居テ大ニケツ構……・コンナ主観ナラ大結構也、医者ガ(目ノ玉)ヲヌイテヤッテヤレ/\とタバコヲ吸ツテル、只、コレ丈デ……・一方ニハ目ノ玉ヲヌイテヤツタ人間アリ一方ニハ目ノ玉(人間の一番大切ナ)ヲヌカレタ人間アリ・……(而白イ悲哀ノコントラスト)ユーモアぢやありませんか、……ドコニコノ人間ノツマラヌ(小細工)ガ出テマスカ、ナンニモアリマセン……只、大自然ノ事実ノミ。
 △水たまりひろひ行く灯の家まで
 アンタ、(自己ガ表ハレタ主かん句)ト見ル……(ひろひ行く)トノ御言葉デスガ……ソレデヨイヂヤありませんか、自己ガ、如何ニ、濃厚ニ、表ハレテ居テモ……ソコニ大自然ト一致シタ、大主観ガ、アレバヨイヂヤありませんか、……ひろひ行くニドコニ小サイ、クサイ我まゝ、自己ガアリマスカ? 草履ガヌレヌ様ニ、灯ノ光ニ従ッテ、水たまりヲトンデ行ッタ、主観ダとか客観ダとか私ニハカマワヌのです。
 △鶏小合、浮いた釘打つて廻る
 鶏小含ガ、釘ガユルクナッタカ、ヌケタカシテ浮いた様ニナッタカラ、釘ヲ打コンデマワツタ、結構デハアリマセンカ、……ドコニクサイ小主親があります?
イクラ書イテモ、切リガナイカラ、之デヤメマス。
  アヽ、クタビレタ、呵々。
 只、乞御返事ノ事左ニ・…
 (一)口上丈デハ……何ヲ私ガ申シテルノカオワカリニナリマスカ?不徹底デスカ?
 (二)アナタ方、「主観」デモ「客かん」デモナンデモ勝手ニオヤリナサイ……放哉少しも、カマワヌ、只、目下ノ放哉トシテ、アンタ方ヨリ、一日ノ長アルタメ、アン夕方ノドンナ句ヲ見テモクサイ主観ニ止マツテ居ラレルカ夫ハ「ソレカラ一歩出タ句」デ有ルカ、ガ、一目見レパ解リマスノデ……此点選者ヲ信頼シテモラヱマスマイカ、如何デセフカ? 口上二ツ(如何ニ初心ノ人デモ、クサクナイ主観句ヲ作ルモノデスヨ、(所謂、大自然ト其ノ時ニ於テハ一致シテイルデスナ、コワイモンデスヨ)
  (要、聴講料)呵々。
 只、少々中ニ、ワル口がありますからオコラヌ様ニ/\/\。
 丁翁足下        十二・二   放生
 
 
 
 啓、今朝、大変ナ霜デ寒フ御座ンシタ、マダ「薬」呑ンデマスガ今日位デ、ヤメル考ニ候、殆、全快シタノデスカラ』此頃近所のお婆サン連中ノ「手紙」ヲ書イテアゲタリ、切手モ紙モ、コッチ持チデ巳ニ四人位モ書キマシタ、大ニ婆サン連中ノゴキゲンのよくなる様に精々努力シテ居マス、ナンデモ来月ノオ大師サマニハ、大勢デ庵ニ来テ、皆デニギヤカニ話ストノ事大ニ、賛成シテオキマシタ。私ハ、此間申上タ通リノ決心故少シモ庵カラ出ズ……其后平をん無事ニ有之候、乞御安心、』今日伺ひますノハ、裏ノ婆サン北朗来庵ノ時カラ、チヨイ/\来テ、手助ケヤ、オ使ヲシテ、ゴク/\親切シテクレマス、ヨイ婆サンデス。』今日ハ、「オ醤油」ト、「オ砂糖」(ドンナ砂糖デモ結構)・……モライニ参りました、ソレカラオ宅ノタクワン清物一本(一人デ少シ宛夕ベルノデスカラ一本デ結構)アノ、ウマイのがモラヱタラ一本ダケいたゞきたい。ソレカラ、おいしい、(ラツキヨ)を又其ノ内ニいただきに参ります。婆サン今日ハ何モ用事ノ無イ日ダソヲデ御願ひ申したワケであります、(此ノ婆サンハ毎日、大抵、アチラ、コチラと働きに行つて居るやうです、〉トテモ元気ナオバアサンであります、……「オ米」モ「炭」モ、マダ/\あります、無クナレバ、イタヾキニ参ります。』井師十五日帰洛ノ由、北朗氏十八日ニ高松ニ来ル由来信アリ、アンタノ処ニモ、通信アリマシタカ?』此頃、御句如何、……此君楼氏ノ「句」デ大阪ノ若手連中、騒イデ手紙オコシマスヨ……ソレハ中ニハ「ヨイ句」ガアリマスガ……私トシテハ、根本意見ニ於テ、賛成シカネル点ガ、アルノデ有リマスガ、貴意如何。
 オッ母様、奥さまはじめ御一同様ヘ、よろしく御礼申上ます。右願状 敬白
              十二月十四、夜認 放哉生
井上一二さま待史
 
 
 
 
 
 啓、此処の島位、風が吹いて寒い処は、今迄知りませぬ。而も、ソレが北西の風といふワケ、そして吹き出したら、檸猛に吹く、且昼夜共、吹き通しで四日でも、五日でも吹きまくる……己に今日迄、五日間、昼夜吹いて/\吹きまくつて居る、実にたまらない、ソレデ風がヤンデ、ヤレ/\と思つて居ると、僅か一日か、二日すると又、四五日、ブツ通しで吹く……今迄コンナ寒い処は、放哉知りませんよ、例の「一燈園」に入つて以来どこのお寺に行つても私は……所謂自分の「修業」の意味で「炬燵」といふものに一向厄介になりませんでした、それでやつて来られたのです。然るに此の島に来ると例の前の「石屋サン」が「冬は炬燵をしないとトテモ暮らせません」と申候「ナニ島の事故少し位は暖いだらう)、と馬鹿にしてゐた処が、此の騒也,……(風さへ無ければ、大した事は、あるまいと思ふのですがネ……何しろ北風……今朝もバケツの水を捨てれば、直ちに氷るといふ有様……「ヒユー/\」と吹きまくるのですからね、そこで之はタマラヌと大いに鷲いてタドン百五十(一円五十銭、沢山買ツタ方がヤスイト云ハレテネ〉「アンカニ二十五銭を大奮発して、それ以来、此の「アンカ」の中に、ちゞかんで居て……何処にも出やしません……風がやんだら、ソロ/\出かける、(例の柱の前の机迄)呵々』。
 御手紙着、御礼……,「特別聴講料」見ましたか、全く肩がコツテ骨が折れた……と云ふのは、アヽ云ふ事は「膝組ミ」で……話し合うても中々了解しにくい事なんだから、ソレヲ筆に書くに至つては、実に困つたですよ、マア而し、アレ位しか書けませんよ、ワカラナケレバ、自分で研究するより外致し方なき問題と思ひますネ、……一体アヽ云ふ「大問題」……「根本問題」を持つて来られると、大抵の所謂、大家連とか、選者とか、云はるヽ人は、十中の十迄、ウマク逃げるものなのですよ、呵々。何故なれば、何しろ、大問題故、下手な事を言へば……弟子の信用を落し、且つ弟子連中から、今迄なか/\ウマイと思つて居たけれども、ソレ程の人ぢや無いな、なんと思はれたら最後、自分の今迄の大家の地位は忽ちにして、ガタ/\と低落と云ふワケ故、コウ云ふ大問題を出されると……大抵、何ンとか、彼ンとか、申して、ウマク逃げを打つのが一般也、呵々。処が、放哉例により、馬鹿正直也、且つ放哉モト/\、無一文、地位も何ンにも無い裸一貫、下手な事を云つて、ガタ/\と相場が落ちても、モト/\「裸一ツ」……於迄損得なし、呵々……之は笑談だが……とても筆には致しニクイが何しろ、毎月金弐円五十銭、いたゞく、其の御礼奉公もなさゞる可からず、且は、コウ云ふ「機会」に一本行つた方がよかろと思つて、他人の如く、ウマク逃げてしまはないで、堂々、発表したワケに候、鳴呼馬鹿正直、放哉健在なれ、呵々……此頃は又、此君楼「短詩形」で大阪の若手連から返事/\で、いぢめられる、浮世は忙がしいな……呵々、(私は短詩形は尊重するも、此君楼の「句」には大なる反対者に候、イロ/\と又俳論があるのですが、又ボツ/\書きますよ」。
 アンタの手紙は大抵夜の便で、来る事が多い……それで、八時前迄起きて待つてる、(大抵九州便ばかり也……内地便なし)、今夜もアンタの手紙モウ、来さうなものと思つてタノシミに起きて、待つて居たら、一本ほり込んで行つた「オイ来た」とばかり、呵々。
 句評甘受……兵隊サンが出ます由、マサカ、アンタラ茲、出る様にはなりますまいぢやありませんか?」私の中津宛長文は、どうしても抽象的になりますが、要するに、例の。
 ○人格の向上は……「諸悪莫作」と云ふ有名な宗門の話と一つで(悪い事はナンデモ、ナス勿れ)、之が中々出来ン、之が出来るに従つて人格、向上すると云ふ……それと同じでソンナニ、「俳句」といふものを、ムツカシク考へないで……平気で「諸悪莫作」でやつて行けば、よいのですよ……中津へは、此事は申しませんでしたよ……だから、えらい「むつかしいなーー」と思つたでせうが……自分から問を出したのだから、仕方が無い、呵々、マア正直にして句作精進/\の事/\(アンカ)にハイツテ寝るのをやめて之丈かいて、寝ます、……サスレバ明朝早い便に、間にアウ故に。  匆々
  乞御通信。 匆々拝
星城子さま    十八日夜 放生
 
 
 
 井児さま                  放生
 啓、御礼状ニツケ加へてゴタ/\書いて、差出しました、御覧下すった事と思ひます。
 只今御手紙着、小生句、御批評一々甘受……殊ニ
 △松山雪風をならしはじむ
 之ハ全く、御察しの通り、北国と同様な私ノ小サイ時、日を送つた田合の日本海に面した雪国での連想ソレニ、此ノ島、がよく風が吹く……風が吹くハヂメははるかサキの山の松風がサー/\となり出す、ソレと二つが重なつて、出来た句なのです……
 私が小サイ時……未ダオバーサンが生きて居ました……(私ヲ非常二愛シテくれた、オバーサン)……其ノおバーサンの専有の炬燵ノ中ニスベリ込んで「オバーサン」からイロ/\昔し話し(童話ヲ)をきく……其ノ時裏山の松林がサー/\と鳴り出します。
 スルト、……おばあさんは(雪風が来たぜ)と申します……スルト此、一両日中ニハ雪がふるのです、之が……未だに、忘れずに居ます……余程、私ノ「感じ」がヨカツタモノト見ヱマス……さう云ふワケ……句として大したものぢやありますまいが、私ニハ夢のやうな……涙ぐましい、思ひ出が、次から/\と雲の如く湧いて来て小サイ時の「平和」そのものゝ様な色々な事ヲ思ひ出して全く一人で泣かされるのです……
今は四十にして妻ナク子ナク、家をなさず、乞食同様な焼米生活……矢張り人間デスネ……ツイ子供の時ニカヱルと矛盾が出来て、泣いてしまふのですよ、呵々……御笑ひ下さい、サヨナラ。
〈御句同封……全ク(デリケート)で、一寸手が入れかねます、私ノヤリ方デハホントデスヨ)
 
 
 
 啓、松ノ実来タデスヨ、五六日も前ニナリマスカ、其ノ時直ニハガキデ礼状ヲ出シマシタヨ、扨ハ私ノハガキノ方ガ行方不明ニナリマシタカナ、カチン/\実ヲコハシテヤツテマスヨ、下手ヲスルト、中ノ実モ何モグチヤ/\ニコハシテシマフノデ、中々呼吸モノナンデスヨ、ソレデハ更メテ御礼
 イロ/\ト御話シ承リ、只何事モ申シマセン……只、此頃デハ色々ナ、オバーサン連中ガ来テクレマス、今月ノオ大師サンニハ(旧十一月)皆デ庵ニ来テ、大イニ騒グノダトテ、タノシミニシテ井マス、私ノ事ヲオヂユツサン(御住職ノ意)アンタモ、ウタツテ、オドリナサイヨと申して居ます、大いに恐縮します……四十二才ノ厄年ヲヒカヘテ、コンナ島ニ来テ、放哉ナルモノ、婆サン対手ニ踊ルトハ、蓋シ浮世ハ面白イデスナ、ドウナル物ヤラ、ホントニ来年ノ厄年ハドウナル事ヤラ……イヤ/\「日日是好日」デスカナ
 此間墓ノ帰リニ西光寺サンガ見エテ、長イ事二人デ、雑だんシテ井マシタ、障子モ、ミンナ張リカヘル事ニシマシタ、何シロ寒サガコタヘマスノデ……北朗ガ、夫婦住居ノ清洒タル処カラ来テミレバ……ナンデモ、カデモ、汚ク見エルノデスヨ、ソンナモノデハ無イデスカナ、住メバ都デスヨ、掃除ハシマストモ、私ガ左ノ手ノオヤユビヲ痛メテ、一週間程薬ヲツケテ、グル/\巻ニシテ居テ、掃除ガ出来ナンダ時ヲ、北朗ガ来テ見タノデスヨ、私ダトテ、ホコリノ中ハキラヒ也、ホントニオ互ニ年ヲトルト、先ノ事/\ト、サキ/\計リ考へラレテ困リマスナ、若イ時ハカウデモナカッタノダケレ共、此頃又馬鹿ニサキノ事ガ気ニナリマス、困ツテ居リマス。北朗、今朝、ハガキオコシマシタ、長逗留デスナ、扨ハ、個展ガ成功カナト大イニ喜ンデ居リマス、(終リニ、年ヲコス参円ノ御礼/\/\) 御礼ヤラ何ヤカヤ書キツケマシタ。匆々 拝
  井師 座下      二十三日         放哉生
 二伸 吹ク/\寒クヨク吹きます、此西風昼夜ブツ通しで、四日でも五日でも平気で吹きまくります、殊に一昨夜来の大暴風となりしものは、塀ヲタホシ、屋根ヲハギ、庵ノ土塀の壁の「上ぬり」約一間半程、ドツカニ持つて行つてしまひました。風が「壁」ヲ持つて行くとはハヂメテ也……放哉コンナ処に住むのはハヂメテにて、朝鮮、満州の酷寒ノ地ノ方ガハルカニ暮しよいですな、コンナに風ハフカズ、第一設備がよいから……烈風ナンデスカラ、一日中周囲が怒号してる雑音ばかりです、気狂になりさうですな、島の人が平気(?)デ居ル処を見ると、モトモト島ノ人ハ鈍感か、習慣か(小供ノ時カラノ)と思ひますよ、慥に、鋭い人は、神経衰弱ニナリマスナ、障子丈デネルノデスガ……昼デモ夜デモ、其ノ障子ニ烈風ガ砂利ヲ叩キ付ケマス、其ノバリ/\/\ト云フ音、イヤですな、全く夜昼ノベツ幕なしに、四日でも、五日でも、ゴー/\ヒユー/\やられて、気がムシヤクシヤして来ます、落着かれないんですな、冬中、コレダと云ふのだから、放哉大いに、アキラメテハ居ます……之も『修業』です。
 
 
 
 啓、昨ばんハ、八時迄起キテ居テ、トウ/\待チボヲケを喰ツテコソ/\烈風ノフトンにもぐり込み候、今日も亦烈風、ドウセ冬中ハコノ、ゴウ/\ヒユー/\ガ夕/\ミシ/\だと云ふから、あきらめて居ますよ、今朝近藤次良サン句稿送ツテ来タ、実ニメキ/\とうまくなつて来て驚いて居ますよ。
 △白波せきれいが来てゐる△ナンカうまいもんぢやありませんか大二感心シテ居タト同君二伝言シテ下サイマセ、ヱライモンデスナ、「一寸シタ心ノ入レカヱ様デ」……「句」が、コンナニ、チガツテ来ルトハ、実ニオソロシイ様ナ気ガスル……俳道礼讃デスネ』今日ハ、アンタニイヤ実ハアンタノ奥サンニ大変ナソシテ馬鹿/\シイ且、恐レ入ツタ而シテキタナイ御願ガ有ル、ドウカキタナクともきいて下さい「愚兄」ノ世話ヲシテヤルト思ツテネ、呵々……扨其ノ来歴ヲ書キマス、呵々、九月ノ末カ十月ノ始ノダツタカ大分遠くなるので一寸忘レテ居マスガ私ガ最初島二来タトキハ、暑イ台湾二行ク気ダツタカラ、ソレ浴衣一枚着タキリデ、風呂しき包小サイノニ、二三冊本トお経文ヲ入レタノヲ待ツテル丈、処ガ此ノ庵二居ル事ニナリ、ソロ/\単衣デハ寒イ事ニナリ、井師ガ気ヲキカシテ、束京カラ袷ヤラ、シヤツヤラ、ジユバンヤラ其他色々送ツテ来テクレタ、大二喜んでソレヲ着テ居タ、……処ガ、アル「月」ノ無イマツ暗ナ晩デシタカ、郵便局二手紙ヲ入レニ行キ帰途……アンタハ知ツテ居ルカドウダカ知ラヌガ、「例」ノ道デ無クシテ郵便局カラ左ニトリ、郡役所ノ処ヲ左ニオレテ、小サイ、たんぼノ中一本道ヲ曲リ/\来ルト、アノ家ノかえゴタ/\シタ中ヲ通ラナイデ庵ノスグ傍二出ルノデスヨ、ソレヲナンノ気ナク皈リカケタものです、処が其ノ晩、前ノ石ヤノ大将ヤナンカト一杯、呑ンデ居タノデス、ソレデ、ヨイ気持デ少シハ(フラ/\シテ居タカモ知レヌ)、其ノマツ暗ナ小サイたんぼ道ヲモドツテ来ルト、マダ来テ間モナイノデ……此ノ道モアマリ歩キツケテ居ラン処ガ、茲二一大危険物ガ有ツタ、ソレハ、其ノ小サイ道ノ右側二沿ウテ約十間計リノ間大キナ、泥溝ガアル、之ハ、水ガタマツテ外ニハケないので昼でモ、ソコヲ通ルト、クサイのです、ソコに一尺位ナ幅ノタンボ道故、ヒヨロリとしたが最後、ドボンーー……ハマツタワケ也、イヤ其ノクサイ事/\……
 夜道故、人モ、誰モ見テ居ナイヲ幸、大急ギデ這イ上ツテ、庵ニ戻ツテ来テ、早速ナニモ、カモ、ヌイデ井師ノ送ツテクレタ残リノ衣類ヤシヤツ、ドレモコレモ皆引ツカケテ(幸マダソヲ寒イ時デナカツタノデ幸也)、ソレデ、済マシテ居タ、キタカラナイ、ヨゴレタ物ハ、空ノ炭俵ノ中ニ皆押シ込ンデ、アノ土間ノ横ノ一寸アイテ居ル所へ突込ンデ置イタ……ソレデ忘レタリ、思イ出シタリナドシナガラ今日ニ至ツトシタガ……コヽガ「年」デスネ……来年ノ四月ヤ五月ニナルト又、袷モ単衣モ無イノダ又、人様ニ御厄介ヲカケテハイカン、アノ汚イキモノハ全部捨テル気ダツタガ……勿体ナイ、イツソ、アレヲ奇れいニ洗ツテモラヱレパ来年四月頃ニナツテモ、他人様ニタノマナクトモヨイ……ト考ヱ付イタガ、扨、島ノ人ハ目ガウルサクテ、ソヲデ無クトモヨイ事悪イ事私ノ事ヲ評判シテルソヲダカラ(コンド来タ庵主ハ婆サンヤ爺サンニ少シモ、オアイソガ無イ、威張ツテル、ソシテ時々酒ヲ呑ムソヲナ、ソシテ、イツモ机ノ前デ、ヱラソヲナ顔付ヲシテル、アレデハ、庵ニ遊ビニモ行ケナイ)ナンカ方々デ、悪口云ツテルソヲデス……百姓ハ実ニ困ツタモンデスナ……弁解スル程ノ事モナシ……コウ云フワケ故、……此ノ泥ダラケノキモノヲ洗ツテモラフワケニ行カヌ(又何コソ、シヤベル、カモ知レヌノデ、呵々)庵ニハ、タライ処カ、何一ツ無イノダカラドウニモナラヌ……ソコデ……ナンデモ、カンデモ、持ツテ行ク処ハ、アンタノ処トキメテ居ルノダカラ……「小包」デ其汚ナイ儲ヲ送リマス……ソコデ奥サンニ低頭へい身シテ放哉御願……ドウカ洗つて下さい(但、クサイデスヨ〉、右、タノミマス……誠ニコイツニハ放哉、大ニテコヅリましたよ、呵々、乞御察、ーーデハ、サヨナラ。
(近日中ニ小包ニシテ差出しますからドウカよろしく/\)
 星サマ       十二月二十四日  放哉
 
 
 
  井 師 座下      二十七日昼           放 哉 生
 今日ハ旧ノ十一月十一日、新ノ十二月二十六日卜云フ日……此ノ日、朝カラ妙二風呂ニハイリ度イ気持ガ出テ来タ、可笑シイ事ダナと思ふ、(或ハ新年ガ近イカラ、旧イ習慣ガ、ソンナ気ヲサセタノカ)正ニ決シテ威張ルワケデモなんデモナイガ、這入リ度イ気持ガ今迄ハ出テ来なんだノデスヨ、……ソレガ、今朝カラノ気持!正ニ四ケ月目ノ入浴也、午後三時頃カラ、ワクと云ふから、アゴヒゲと口ヒゲとヲ、ゴク短カク、ハサミデ刈ツテ、……頭モ大分、後頭部ハノビテ居ル様ダガ……コレハ此儘止して、扨、銭湯に行く、早いから二三人シカ居らぬ……湯銭参銭也、全く、よい気持になつて……四ケ月ブリのよい気持になつて、(エライもんだ、手も足も、白くなりましたよ)帰庵しました、扨、其ノ銭湯で、姿見ニ、私ノカラダヲ久しぶりニウツシテ見テ、実に驚いたの、ナンノつて……マルデ骨と皮也、私ノ「顔」ハ、昔カラ、病気シテ長ク寝テ居テモヤセナイ顔ナンデス、之デハ、十貫目モアルマイ、(十四貫近クアツタノダガ)……痩セタリナ/\、コレデハ到底、コレカラ、肉体労働ハ出来ヌ、只、カウシテ座つて、掃き掃除位サセテモラツテ、早く死ぬこと/\、と思ふと、全く自分乍ラ、アキレ過る程、ヤセタ/\、驚き申候」(下略)
 
 
 啓、御無沙汰致して居ります。お変りない事と思ひます、(タクワン)ヲ三本いたゞいて大切にして、少し宛/\いたゞいて居ります……私ハ(コーコ)が第一番ノ好物ですから。
扨、其ノ后、アナタに対する御約束益々実行、此頃デハ全く世捨人同様であります、之デ西光寺サンにも、安心してもらへる、全く、精進又精進であります、安心して下さいませ、アナクの御名よにかヽる事ハ必致しません……又、大ニお婆サン連中ノ役目をひきうけて同情を得るにつとめてマスが中々十人が十人共喜んでくれるといふワケにハ行き申さず、味方も出来れバ敵(?)も出来るといふワケ、早い話しが、「肴」ヲウリニ来ル婆サン、……之が私ハ東京流儀デ、カケネヲ余り知リマセン故、マケロと云ふ事ヲ申しません、(高イナ〉と思つても、先方の「云イ値」でイツモ買ふのです(ナニ大したオ金の事ではありません、十銭か二十銭かノ貰ひものですからな、呵々)ソレデ、先方ノ「云ヒ値」デ買つてヤルもんだから大ニ喜んで、方々ニ行つては、コンドの庵主ハイツモ勉強ぱかりして居て大変よい人ダと申して居たさうですが……アル時……「鯖」ノ実ニマヅイ奴ヲウマイト「嘘」ヲツイテカワサレ、其次ハ、「小サイ魚ノ干物」ヲウマイ/\ト「嘘」デ買ハサレ、タベテ見ルトカチ/\の塩ヲナメテル様デ、而シ、「勿体」ナイカラ、向フノ石ヤサンノ犬ガ来タカラ、投ゲテヤツタラ、プント嗅イダ切リデ、犬モ喰ヒマセン、……人ノ正直ヲツケコンデヒドイモノヲ売ルト大ニ腹ガ立チマシタヨ、アトデ前ノ石ヤサンニキイテ見ルト、……コノ「婆サン」……兎角、ソンナ「嘘」ヲ云フソヲナ、シカモ其ノ「サバ」ナンカ、石ヤサンニハ「二十銭」デ売り私ニハ「三十銭」デ売ツテル事アトカラ聞イテ益々イヤニナリ、其ノ次「婆」サン来タトキ、「嘘ヲツイテハイカン……正直シナサイ」ト叱ツタラ、ソレカラ来マセン、此間外ノアルオ婆サンカラキクト、アル家デ私ノ「悪口」ヲ云ツテ居タソヲナ……実ニ「度シ難シ」、此ノ「婆サン」ノ云フ処ニヨルト……アンタノオ宅ニヨク魚ヲウリニ行ツテ色々ゴチ走ニナルト自分デ話シテイマシタヨ……又、此ノ婆サン、何コソ云フヤラ……マア余リトリアゲナイデ、放哉ハ決シテ「ウソ」ハツキマセンカラ……悪イ事シタ時ハ必悪イ事シタト白状シマス……ドウモタクサンの婆サン爺サンノ相手ヲシテルト、「味方」モ出来レバ、「敵」モ出来マス、ドウモ此奴、ヤムヲ得ヌ事トアキラメテ……只々、正直ニ御約束ヲ守ツテ精進シマス……中々、キゲンデトルノハ骨ガオレマスナ、殊ニ大抵ノ(バーサン)(ヂーサン)ハ、耳ガ遠くて、……強情ト来テルノダカラ、呵々……御察し下サイ。
 △私ハ非常ナ「小食」ノクセニナリマシテ……ソレデモ例ノオ米、ダン/\少ナクナリマシタガ、……以前イタヾイタ、アトノ分ハ水瓶ノ中ニ入レテオイテ少々、悪クシテシマツタ様ナ、勿体ナイワケ、ソレ故、新年ニナリマシタラ、もらひニ行キマスカラ……拝借ノ(トタン)デ出来タ(丸い入れもの)二一杯はいる丈、イタヾキ度存候、サスレバ又、三ケ月ヤ四ケ月ハ充分アリマスカラ、(アノ入レモノニハイル丈)新暦ノ年ヲコシテカラ、いたゞきニ伺ひます……
 △ヱライ風デシタナ、寒くて/\夜中ナンカ、土砂ヲ障子ニタヽキ付ケル音、物凄しとも物凄し。冬中ハ此ノ「北西ノ烈風吹キマクル由」、キヽマシタ故、放哉正ニアキラメテ「ちゞかんで」居ります、此間ナンカ、庵ノ土塀ノ「上塗リ」一間半程、ハイデ行きました、「風」が「壁」ヲ、サラツテ行くとは、ホントニ鷲くの外ありません。又、ソロ/\風が出タやうですな、桑原/\/\。
 △北朗帰京したと見えて手紙を今日、おこしました。(層雲新年号)己ニ出タソヲデスヨ、又馬鹿ニコンドは早い事ヲシタモンデスナ。ーー新年号ニハアンタノ句ハ有るでせうな。
 △北朗来后、……井師ヨリ、「頻々」として、「苦言又苦言」ノ手紙来、「放哉」正ニ「立ツテモ座ツテモ居ラレヌ気持ニ相成申候……私ガ悪イノダカラ、此ノ業病ニ打チカツ可ク、……「御約束必実行」……「寸時タリトモ世捨人タル事ヲ忘レヌ事」……右ヲ只精進致居申候。井師ヨリ、三本モ四本モ苦言いたゞき居り申候、而シ皆、此ノアハレナ放哉ノ将来ヨカレと、色々心配して下サル事ナンデスカラ、全く感謝ノ外ありません。……放哉ガ悪イノデスヨ……(御約束死ス共実行シマス)風ガ、ヤンデヨイ気持ニナリマシタノデ、久シブリデ、ゴク/\書キマシタ。サヨナラ。
 一二様           二十八日 放生
 
 
 
 啓、茲一両日、無風シカモ時々小雨といふのですから……大ニ落付いてしまつて其の気持のよい事……牢屋から出て来た様な、全くです(風がないと、決して酷寒ではないのですから(中略)
 今夜アンタニ訴へて見たいと思つたのは「旅人の悲哀」といふ事であります「ストレンヂヤーの悲哀」……島崎藤村ガ「本」ダツタカ?雑誌ダツタカ、自分ガ(フランス)ニ居タ時の「ストレンヂヤーの悲哀」を書いて居たのをよんで涙無き能はずでアリマシタ、而も、此ノ時の「悲哀」ハ私がコレカラ書く様な、「あくどい」ものでは無かつたと、オボエテ居ります、ソレハ、此島ノ土着ノ住民(何代モ何代モ住ンデル)ニ関してゞあります、之等「土着民」ハ、他国から移住して来て、此島デ生活スル人々を、常ニ「異端者」扱ひにします、そして常ニ「ウノ目タカノ目」で其ノ人々ノ行動ヲ見テ居テ、一寸シタ事があると、直ニ之を同人土着者間にフレ廻りて悪口を申します。故ニ他国から移住した連中ハ常ニ小サクなつて居なければナリマセン、……自分ノ生レタ(土)……郷里ヲ見捨て、他国で生活スルト云フ事ハ已ニ其ノ間、何等かの悲シイ「歴史」ガ有ルニ相違ありません……此ノアハレナ旅人……ストレンヂヤーを彼等土着民ハ、同情ヲ以テ見ズシテ、カヘツテ機会アレバ、之レヲハネ出し、追ヒ出サントシテ常ニ「異端者」トシテ注意ヲ怠ラナイ……トハ何卜云フケツの穴ノ小サイ……日本人ノ、クセデセウ、特ニ小サイ島ノ住人トシテ、益「穴」モ小サイ……トテモ「度」スべカラズ、コンナ連中ガ、オ大師サン信心モ何モアツタモンデスカ、……全クアキレ返ルトハ此ノ事に候、気ノ毒ナ旅人ニハ、コチラから進んで同情シテ、仲よく暮して行くのが「人間ノ道」ぢやありませんか、ソレが全く正反対……ソシテ其の旅人ノ行動ヲシラベル係リハ、多ク用事ノ無イ(死ヌヨリ外ニハ)婆サン爺サンガ、引ウケル、ソレデ、有ル事無イ事シラベテ来テハ手柄顔に話ス、コレニ若い男女(主ニ女)が声援する。「ストレンヂヤー」ハ小サクナラザルヲ得ンヂヤ有リマセンカ?──私モ漸ク此頃私ノ味方ニナツタ婆サン爺サン其他、西光寺サン等カラ、聞キダシタ事デスガ、私ガ此ノ庵ニ来ルトスグカラ御多分ニ洩レズ「ストレンヂヤー」としての、調査ガ始ツタサウデス──其中面白イノヲ二三申シマセウカ、△坊主ダサウナ、△イヤ、俗人ダ、△「カギ文」ノ嫁サンノ兄キダ……コレナンカ秀逸、△西光寺サンノ兄サンダ……之モ秀逸、△高松ノ人ダ、△岡山ノ何郡カラ来テ井ル、△俳句ヲヤル人ダ、△酒呑ミダ、△アレハ、ナントカ云フ処ノ役者デアツタ……旅役者ハ秀逸也、△平民ダ、△士族ダ(此ノ族籍ハ直接私ニキカレタ爺サンガアツテ驚入り申候)、△拾万円モアル財産家ノムスコデ病気デ来テ井ルノダサウナ、大ニ秀逸也、△女房モ児モアルサウナ、△オ経ハ少シモヨメヌサウナ、△イヤ、オ経ハ長イ事習ツタ人ダサウナ、△此頃見タ様ニ、一日ニオ遍路サンノ、サイセンが弐銭カ参銭位カ上ラヌノデ、ドウシテ タベトルダロ、△アンマリ肴ヲウリニ行ツテモトント買ハナイ……一体何ヲ喰ツテルダロ、△町ニ少シモ出テ来ヌガ、病人ダらう……、△オ米ハ(カギ文)カラ送ツテ来テ、(オ金)ハ西光寺サンカラ出ルサウナ(アル婆サンの如キハ、西光寺サンニ行ツテ南郷庵ノ人ニウツタ物ノオ金ハ、オ寺デ払ヒマスカ、ドウデスカ? 突ツ込ミニ行キシ由也……「旅人」故、夜逃ヲサレテハ困ルト思ヒシ由也、コンナ事カキ出シタラ、キリがありませんからヤメマス……コンナ事最近キヽ出シタ事実ニ候……
   ○此ノ「冬ニ夜話」ハ近頃カラ私ノ唯一無二ノ味方トナッタ(但、オ金モ少々ヤルノデスヨ「孫」ニ菓子ヲ買ツタリネ呵々)アル婆サンガ『何シロ、アンタも「旅の人」ダカラ、「悪口」云ハレテモ、カマハズ、がまんナサイマセ』ト申シタ、其ノ「旅の人」ト云フ事ガ、異様ニ聞エタノデ、ソレカラソレと聞キ出シテ、コレ丈ノ材料ヲ得タワケデスヨ、呵々
 ナント云フ、オセツカイナ、オ世話様ナ事デセウカ……アーイヤダ/\全ク、(ストレンヂヤー)ノ悲哀デスナ……。
 アンタ方ノ処ニモツテ行クヨリ外ニハ、島デハ誰一人として心カラ此ノ、アハレナ旅人ニ同情シテクレルモノハ無いのだ、……涙なき能はずデス、(西光寺サンノヤウナ人ヲ得テ私ハ、放哉ツク/゛\有りがたい事だと思つてゐますよ)……コンナ土着民連ヲ一度支那カ、満州アタリニ追ヒヤツテ、世界ハヒロイ事、他人には、心から同情セナケレバナラナイ事を骨迄シミコマセル必要ハナイデセウカ。(下略)
  井師 座 下      二十八日夜            放哉
 
 
 啓、御帰宅の由、寒かつたでせうネ、ヱラかつたでせうネ、「ハテ、貴方から送つてくれるものは無い筈だが」……ハ、至言/\、呵々大笑物也、殊に大秀逸は……七ツになる、長男子が、「オ菓子ヂヤなかつた、くさきものぢや……」烈風中腹をかゝへて、年忘れの大笑ひを致し申候、小供ハヱライナーー、オツ母サン、奥サンに、クサキ件御ことわり、是三ケ月の以前の事トテ、捨てられ可き、運命のものが、又、ノコ/\炭俵の中から此ノ世ニ出た事とて、中々、ヨオ奇れいにはなりますまいが、イヽかげんでよろしいから、御ユツクリ御ひま/\に、なほして下すつて、イツデモ御序の時でよろしいから送つて下さればよいです、何しろ、「単衣」と「袷」なんだから、三ケ月以前ナンダカラ、呵々。私ハ「島」の人間と云ふものは、少し、「ノンビリ」して「正直」な者と思つて居たが、全く正反対で、コノ島ノ住民は中々不正直で且、人が悪るい……「島」と申しても矢張り、今少し、「南国気分」のある、そしてアマリ頻繁に他と交通の無い「島」に行かねば……所謂、「ユツクリ」「ノンビリ」した正直な人々を見出す事は出来ないらしい、困つた世の中になりましたネ』但、放哉ハ、アク迄、放哉流としてヤツテ行きますよ、命をほり出したものが、コワイ物はナイはずに候、只、口ハコワクは無いが「癪」にさはるので困る、鳴呼、此ノ「癪だ」、「癪だ」、の癪に困りますよ、呵々』。「オ経」ヲよむ者が、コンナ事では、イカンと思へ共全く時々、ハリタホシテやりたくなる時があるのも凡夫か??……只何事も云はず「句作」精進の事精進の事』。山本氏(先生トカ)ノ件、放哉ハ決して、イソギませんよ、実を申せば、余り、「妙」ナ句(?)ヲタクサン見せられるのは苦痛ダカラ(実際の処也)……山本氏が気が向いた時に、オコサレルのは、かまひませぬと云ふ程度で御承知下サイマセ、呵々』
 避寒ノ件……絶望……己ニ私ノ手紙でごらん下すつた事と思ひます、残念千万……而シ、「縁」が熟して来れば、イツ又、ヒヨツコリ逢へるかも知れませんよ』何事も仏(大自然)の思し召し次第と思つてゐます』。
 自分の小サイ力では今ナントモ出来ません。
 中津ニモ、博多ニモ別ニ行きたくも無し。アスは、三十一日……ソレデハ又書キマス。サヨナラ。
 星さま       三十日 放哉生
 
 
 
 啓、雪デモ風ガナイトヨイナ。此君楼氏ノ句ニ対スルアンタノ御意見ノ中ニ、井師が、アンナ句ヲ選シテ居ル事ガ難ジテ有ツタ様ダガ……一寸弁ジル……アレガ選者ノムツカシイ処デーータトヱヨイ句デ無イト思ツテ居テモ、其ノ作者ガ或ル方面ノ研究ニ大ニ夢中ニナツテル時ヲ、之ヲ、アタマカラ没書ニスルト直ニ元気ガナクナツテシマツテ、句作シナイ様ニナルカラ、其ノ汐時ヲ見テ大ニ助長シテ、其ノマヅイ句が「玉成」スル様ニ手ヲトツテ助ケテ行カネバナラヌノデスーー往々「玉」ガ「埃」ノ中カラ出ルノダカラ……茲ガ選者トシテノムヅカシイ処也。
 △「毒壷」ニ入会シマシタカ。△天香氏マダ下ラナイ事シヤベツテ歩イテ居ルノカナ……静ニ同氏ハ瞑想ス可キ時期ニ来テルト思フノデスガナ。
 △鳴雪氏、年よりですからな、オ気ノ毒ですな。
 △私ノ手紙ノ……青年ニ礼儀ナシト云フノニ対シ色々、弁難サレタ様ダカ……中々、ムツカシイ呼吸モノデスヨ、一体、「禅」ヲヤルト、今少シ、カドがとれて、丸くナラヌモノカナ、……なんと云ふ、アンタの一言葉がアツタが、一体「禅」ト云フモノヲドウ思うてるのですか?……一寸見ルトザツクバランの何モカモ、カマワヌガラ/\ノ様ニ見ヱルカモ知ラヌガ、一度ホントニ僧房ニはいつて、座禅をくんで……実際ノ寺ノ中……仕事ヲシテ御らんなさるとワカル(私ハ鎌倉円がく寺ニ居タノダガ宗演老師ノ生キテタトキで)ソレハ/\中々キビシイ厳重ナモノデ、一寸上役ノ僧ニ対シテモ礼拝ノシ方カラ、何カラ何迄、目ノキキ方迄、ソレコソ、手ノツキ方モ、足ノフミ方モ、秋霜の如く厳重ヲキワメタモノ也、ソシテ其ノ長上ニ礼儀ヲ重ンズル事ハトテモ、俗人間デハ見ラレナイ位、キビシイモノです………ソレヲ辛抱シ、座禅シテ修業シテ后ニハジメテ公々……咬々……マン丸い、打ち開いたモノニなるので……クソモ味そモ、イツシヨのものぢやありませんよ、(ソレコソ野狐禅也)……
ソレハ礼儀ヲ重ンズル事ハ血ノ出ル程厳重ヲキハメタモノニ候……ソレヲ今ノ青年ハ知ラナイデ、イキナリ……其ノ円まんな、何等区別ノナイ様ニ見ヱル処丈ケヲ見テ、安心シテシマウカラ……大ナルマチガイ心得チガイガソコニ出来ます……マア此位/\/\呵々』
 △商ばいハン盛ありがたし/\……ニソレカラ全く、アンタニハ……「人ヲシテ信ゼシムル処ガアル」之か、あんたノ最大ノネウチニ候、放哉ノ……アンタを、タノミにする処ーー正ニコノ点也、アリガタシ/\。
 △全く人間至る処青山/\……今年モ、大ニヤリマセウヨーー星さんーー」
 △厄年ハ前厄デスンダノデスカ、ありがたいな、オツ母さんによろしく御礼申して下さいませよ。ソレデハサヨナラ。
   星さま      三日 放生
 
 

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「放哉」南郷庵友の会
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