科学の色>ベンガラ

ベンガラの謎(3)

備中吹屋はすばらしかったが、肝心のベンガラの謎は不明のまま。が、ベンガラ館で購入した「備中吹屋」(山陽新聞社編集)にヒントがあった。

 大阪で鉄屑を原料とした鉄丹(てつに)ベンガラの製造が始まっていたが、吹屋ベンガラの方が品質が優れていたため、18世紀の終わりころには吹屋ベンガラにとって代わられたという。

 「鉄丹」の丹、これこそ古代の朱(アカ)のキーワードだった。「字訓」(白川静著、平凡社)に、
「に【丹】」:土を意味する古語であるが、特に赤土のことをいい
黒ずんだ赤色のベンガラ とある。丹が朱色顔料の総称であったと考えられる。古代の朱色顔料には、真っ赤な硫化水銀朱砂とやや黒ずんだ酸化第二鉄の2種類があったが当時の人にはその成分を区別する術はなかったはず。

 朱砂は辰砂とも呼ばれるが、辰砂は中国湖南の辰州に由来する。辰砂は、「まそほ」(真赭の字が当てられるが、真赭は「しんしゃ」とも読める)とも呼ばれていたらしい。酸化第二鉄(ベンガラ)の朱は、「そほ」(赭)と呼ばれ、区別されたようだ。

 朱砂は高温加熱により水銀を得ることができるので、古代この業をもっていた丹生一族はかなりの力を持っていたようだ。この辺りから「丹」は、水銀丹中心の呼び方に代わったのではないか。(「古代の朱」(松田壽男著、ちくま文芸文庫)に詳しく出ています。)


 一応の結論(不十分ですが・・・)
 ベンガラは、色名ではなく顔料の名前。色名としては、朱(アカ)の範疇。顔料名は、江戸時代に東インド会社を通じて大量に輸入されるまでは、「に」(丹)、「そほ」(赭)と呼ばれていた(と思われる)。

 おまけ
 朱色は、現在黄みがかった赤(オレンジに近い)と共通認識されているが、本来は真っ赤である。天平時代以後辺りから、鉛丹(四酸化鉛)が、鳥居等に使われ出した。鉛丹はオレンジ色に近く、日本人の朱色の概念が少しずつズレたようだ。

(2006/10/15、TAKA)

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